組織ネットワーク分析(ONA)とは、組織内の人と人とのつながりや情報の流れを可視化し、協働関係や連携上の課題を把握する分析手法です。部署や役職を示す組織図だけでは分かりにくい、部門を越えた協力関係や、特定の従業員に情報共有が集中している状態などを分析できます。
組織ネットワーク分析を人事や組織開発に活用するには、分析の目的を明確にし、適切なデータを収集したうえで、結果を具体的な改善施策につなげることが重要です。
本記事では、組織ネットワーク分析の意味、組織図との違い、主な活用例、分析の進め方、実施時の注意点を解説します。
組織ネットワーク分析とは、人と人とのつながりを可視化する手法
組織ネットワーク分析は、英語の「Organizational Network Analysis」を略してONAと呼ばれます。組織内で誰が誰と協力しているのか、誰を通じて情報が伝わるのかといった関係性を分析し、組織の実態を把握するための手法です。
分析対象は、部署や役職などの公式な組織構造だけではありません。業務上の相談相手、知識を共有する相手、プロジェクトで協働する相手など、目的に応じた人と人との関係を対象にします。
例えば、組織図上では別々の部署に所属していても、実際には頻繁に情報を交換している従業員がいるかもしれません。反対に、同じ部署に所属していても、日常的な情報共有が少ない場合もあります。組織ネットワーク分析では、こうした関係性をデータに基づいて可視化します。
ただし、分析結果から把握できるのは、あくまでも設定した対象とデータによって捉えられた関係です。組織内のすべての人間関係や、個人の能力・貢献度を完全に把握できるわけではありません。
組織図による分析との違い
組織図と組織ネットワーク分析は、どちらも組織の状態を把握するために役立ちますが、主な分析対象が異なります。
| 比較項目 | 組織図 | 組織ネットワーク分析 |
|---|---|---|
| 主な対象 | 部署、役職、指揮命令系統 | 人と人との関係性 |
| 把握できること | 公式な組織構造や所属 | データで捉えた協働関係や情報共有の構造 |
| 主な情報源 | 人事情報、組織情報 | アンケート、業務上の連携データなど |
| 活用例 | 所属や役職、報告経路の確認 | 部門間連携、情報の集中、関係性の偏りの分析 |
| 注意点 | 非公式なつながりまでは分からない | 収集したデータに表れない関係は把握できない |
組織図は、会社が定めた組織構造を確認する際に適しています。一方、組織ネットワーク分析は、実際の協働や情報共有の関係を把握したい場合に役立ちます。
両者を組み合わせることで、公式な組織構造と、データから見える関係性を異なる視点から確認できます。
組織ネットワーク分析の主な活用例
組織ネットワーク分析は、組織内の情報共有や協働関係を把握し、人事施策や組織改善を検討する際に活用できます。代表的な活用例を紹介します。
部門間の連携不足や情報の分断を把握する
組織が大きくなると、部署ごとに業務が分かれ、部門を越えた情報共有が難しくなる場合があります。組織ネットワーク分析では、部門間のつながりや情報の流れを分析し、連携が少ない領域を把握する手掛かりを得られます。
例えば、複数の部署が共同で進める業務があるにもかかわらず、部署間の情報交換が限られている場合、定例会議の設計や共同プロジェクトの進め方を見直すきっかけになります。
ただし、部門間のつながりが少ないこと自体が問題とは限りません。業務上の必要性や各部署の役割を踏まえて判断する必要があります。
特定の従業員への情報集中や属人化を把握する
特定の従業員が多くの相談を受けたり、複数部署の情報を取りまとめたりしている場合、その人が組織内の重要な情報経路になっている可能性があります。
こうした関係性を把握できれば、知識共有の仕組みを整えたり、業務手順を文書化したり、複数人で対応できる体制を検討したりする際の参考になります。
一方、ネットワーク上で中心的な位置にいることは、必ずしも業務負荷が高いことや、本人の能力が高いことを意味しません。担当業務や役割など、ほかの情報と合わせて解釈することが重要です。
チーム内の協働や知識共有の課題を把握する
チーム内で協力関係がどのように形成されているかを分析することで、情報共有の機会が限られている領域や、知識を持つ従業員とほかのメンバーとの接点が少ない状態を把握できる場合があります。
分析結果は、業務の引き継ぎ、ナレッジ共有の仕組み、部門横断の勉強会などを検討する際の材料になります。ただし、ネットワーク上の接点が少ないことだけで、本人が孤立している、あるいは組織への貢献が低いと判断するのは適切ではありません。
組織ネットワーク分析で使うデータと基本指標
組織ネットワーク分析では、分析目的に応じて、人と人との関係を示すデータを収集します。データの種類や分析指標によって、把握できる内容は変わります。
分析に使うデータの種類
主なデータには、従業員アンケート、プロジェクトでの協働情報、業務上の情報共有に関する記録などがあります。
- 従業員アンケート:業務上の相談相手、知識を得る相手、協力して仕事を進める相手などを質問する。
- 協働に関する情報:共同プロジェクトや業務上の連携関係を把握する。
- 業務上の記録:目的や社内ルールに照らして適切に利用できる場合に、情報共有の状況などを分析する。
どのデータを利用するかは、解決したい課題によって異なります。例えば、従業員が誰に相談しているかを把握したい場合と、部門間のプロジェクト連携を把握したい場合では、適したデータが異なります。
メールやチャットなどの業務データを利用する場合は、個人情報や機密情報の取り扱いにも注意が必要です。利用目的、対象範囲、アクセス権限、社内規程などを事前に確認しましょう。
ノード・エッジ・中心性・密度の基本
ネットワーク分析では、人や組織を「ノード」、ノード同士のつながりを「エッジ」として表現します。組織ネットワーク分析では、従業員をノード、相談や協働などの関係をエッジとして表すイメージです。
分析では、次のような指標が使われることがあります。
- 中心性:ネットワーク内で、あるノードがどの程度中心的な位置にあるかを示す指標群です。指標の種類によって意味が異なります。
- ネットワーク密度:対象となるノード同士のつながりが、理論上可能なつながりに対してどの程度存在するかを表す指標です。
- コミュニティ:ネットワーク内で、相互のつながりが比較的強い集団やまとまりを指します。
これらの指標は、単独で良し悪しを判断するためのものではありません。中心性が高いことが望ましいかどうかは、業務上の役割や分析目的によって変わります。指標の意味を理解したうえで、組織の状況と照らし合わせて解釈しましょう。
組織ネットワーク分析の進め方5ステップ
組織ネットワーク分析を実務に取り入れる際は、分析そのものを目的にせず、組織課題の把握と改善につなげることが重要です。基本的な進め方を5つのステップに分けて解説します。
ステップ1:分析目的と課題を明確にする
最初に、どのような組織課題を把握したいのかを明確にします。「組織のつながりを可視化する」だけでは目的として不十分です。
例えば、部門間の連携を見直したいのか、特定の従業員に集中する知識を共有したいのか、チーム内の協働関係を把握したいのかを具体化します。目的が明確になれば、必要なデータや分析方法も選びやすくなります。
ステップ2:対象範囲とデータを決める
次に、対象となる部署や従業員、分析期間、調べる関係性を決めます。全社を対象にする方法もありますが、最初は特定の部署やプロジェクトに範囲を絞る方法も考えられます。
あわせて、データの収集方法、利用目的、閲覧できる担当者、保存期間などの運用ルールを整理します。従業員の情報を利用する場合は、社内規程や適用される法令を確認し、必要に応じて法務・個人情報保護の担当者に相談しましょう。
ステップ3:データを収集・整理する
設定した目的に沿ってデータを収集し、分析できる状態に整理します。アンケートを使う場合は、質問の意味が回答者によって異ならないように設計することが大切です。
また、回答漏れや対象者の偏りがあると、ネットワークの一部しか捉えられない可能性があります。データがどの範囲を表しているのかを確認し、分析結果を解釈する際にも限界を考慮します。
ステップ4:ネットワークを可視化・分析する
整理したデータをもとに、関係性を図や指標で可視化します。部門間のつながり、特定の人に集中する関係、まとまりのある集団など、最初に設定した課題に沿って分析します。
ここで重要なのは、目立つつながりや数値だけを見て結論を出さないことです。業務内容、部署の役割、データの収集条件なども踏まえ、結果が何を示しているのかを慎重に判断しましょう。
ステップ5:改善施策を実行し、変化を検証する
分析結果から課題の仮説を立て、具体的な改善施策を検討します。例えば、部署間の情報共有が少ない場合は共同プロジェクトや情報交換の機会を設ける、特定の従業員に知識が集中している場合は手順書の整備や複数人での引き継ぎを検討するといった方法があります。
施策を実施した後は、当初の課題に変化があったかを確認します。必要に応じて再度分析し、施策の見直しにつなげましょう。分析結果を一度確認するだけで終わらせず、継続的な改善に活用することが重要です。
組織ネットワーク分析を実施するときの注意点
組織ネットワーク分析は、組織の関係性を把握する手段ですが、データの集め方や解釈を誤ると、従業員への不適切な評価や誤った施策につながる可能性があります。実施前に次の点を確認しましょう。
データの利用目的とアクセス権限を整理する
従業員に関するデータを利用する場合は、利用目的や取り扱い方法を事前に整理します。個人情報を取り扱う際には、個人情報保護法や関連ガイドライン、社内規程などに沿った対応が必要です。
特に、メールやチャットの履歴などを分析に利用する場合は、取得・利用できるデータの範囲や、利用目的との関係、閲覧権限、安全管理措置などを慎重に確認します。従業員に対して、分析の目的やデータの扱いを適切に説明することも検討しましょう。
参考:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
具体的な対応は、利用するデータや運用方法によって異なります。判断に迷う場合は、法務担当者や個人情報保護の専門家に確認してください。
分析結果だけで個人の能力や貢献度を判断しない
ネットワーク図では、つながりが多い人や、ほかの集団を結ぶ位置にいる人が目立つことがあります。しかし、つながりの多さが、そのまま能力の高さや業績への貢献を意味するわけではありません。
例えば、業務上の役割によって相談を受ける機会が多い人もいれば、専門業務に集中しているため、ほかの部署との接点が少ない人もいます。数値や図だけで従業員を評価せず、業務内容や本人の役割なども考慮することが重要です。
分析結果を一度きりの診断で終わらせない
分析で課題が見つかっても、改善施策を実施しなければ組織運営の見直しにはつながりません。施策の担当者、実施時期、確認する指標などを決め、実行後に変化を振り返る仕組みを整えましょう。
また、組織の人員構成や業務内容が変われば、ネットワークの状態も変化します。分析の目的に応じて定期的に状況を確認し、必要に応じて施策を見直すことが大切です。
組織ネットワーク分析を人事・組織開発に生かすには
組織ネットワーク分析の結果を人事施策に活用するには、関係性の分析だけでなく、従業員情報や組織構造を適切に管理することも重要です。
例えば、部門間の連携状況を確認する場合は、組織図や所属情報を参照することで、公式な組織構造と分析結果を照らし合わせやすくなります。また、組織改編や人事異動の前後で状況を比較したい場合は、組織構成の履歴を確認できる環境も役立ちます。
HRオートメーションシステム「サイレコ」は、従業員情報の一元管理、組織図の作成・活用、組織構成の履歴検索、人事情報の集計などを支援するクラウド型人事管理システムです。
ただし、これらは組織情報や人事情報の管理・活用に関する機能です。組織ネットワーク分析に必要なネットワーク図の生成や、中心性などの指標分析に対応していることを意味するものではありません。
人事情報の管理方法や組織図の活用を見直したい場合は、公式機能紹介で対応範囲を確認してみてください。
組織ネットワーク分析に関するよくある質問
組織ネットワーク分析とソーシャルネットワーク分析の違いは何ですか?
ソーシャルネットワーク分析は、人や組織などのつながりを分析する幅広い手法です。組織ネットワーク分析は、その考え方を職場や企業などの組織に適用し、協働関係や情報共有の構造を把握するものです。用語の使い方は資料によって異なるため、分析対象と目的を確認することが重要です。
組織ネットワーク分析にはどのようなデータが必要ですか?
分析目的によって異なります。従業員アンケート、プロジェクトでの協働情報、業務上の連携に関する記録などが候補になります。データを収集する前に、何を把握したいのか、どの情報を利用できるのか、どのように管理するのかを整理しましょう。
組織ネットワーク分析に専用システムは必要ですか?
必ずしも専用システムが必要とは限りません。対象人数、データ量、分析の複雑さ、可視化の必要性、セキュリティ要件などに応じて検討します。小規模な調査から始める方法もありますが、継続的に分析する場合は、データ管理や分析作業の負担も考慮してツールを選びましょう。
まとめ:組織ネットワーク分析でつながりを把握し、改善施策につなげよう
組織ネットワーク分析(ONA)は、組織内の人と人とのつながりを可視化し、部門間連携、情報共有、知識の集中などの課題を把握するための手法です。公式な組織構造を示す組織図とは異なり、データで捉えた協働関係や情報の流れを分析できる点が特徴です。
実施する際は、分析目的を明確にし、対象範囲とデータを決め、適切に可視化・分析したうえで、改善施策と効果検証につなげましょう。個人情報の取り扱いに配慮し、分析結果だけで従業員の能力や貢献度を判断しないことも重要です。
まずは、自社で把握したい組織課題を一つ選び、必要なデータと分析後に実施する施策を整理するところから始めてみてください。