人材不足の原因となるスキルの不足は、業務ごとに必要な習熟度・人数・時期を決め、現状と比較して分析します。スキルを持つ人がいても、兼務や配置の制約で担当できない場合があるため、保有状況と担当可能性は分けて確認します。
本記事では、人数不足との切り分けからデータ収集、不足判定表の作成、採用・育成・配置の選択までを解説します。
人材不足は「人数・スキル・担当可能性」を分けて分析する
「人が足りない」という状態には、業務量に対して人数が不足している場合と、必要なスキルを持つ人が不足している場合があります。さらに、スキルを持つ人が在籍していても、別の業務を担当していて必要な時期に配置できないこともあります。
最初に、この三つを分けて確認しましょう。
| 確認する問題 | 状態の例 | 確認する情報 |
|---|---|---|
| 人数不足 | 必要な能力を持つ人はいるが、業務量を処理しきれない | 業務量、有効稼働時間、必要人数 |
| スキル不足 | 在籍人数は足りているが、業務を遂行できる人が少ない | 必要な習熟度、経験、資格、実務の遂行状況 |
| 配置・稼働の制約 | 必要な能力を持つ人が他業務との兼務などで担当できない | 担当業務、配置予定、対応可能な時期・時間 |
これらの問題は同時に起こることもあります。人数だけを増やしても、採用する人の能力や配置条件が合わなければ、不足を埋められるとは限りません。
必要なスキルと現状の差を把握することを「スキルギャップ分析」と呼びます。分析の目的は、社員を単純に順位付けすることではありません。どの業務に、どの能力を持つ人が、いつまでに必要かを明らかにすることです。
不足スキルの分析は、対象業務と必要条件を決めてから始める
分析を始める前に、比較の基準を決めます。全社員のあらゆるスキルを一度に調べるより、事業への影響が大きい業務や、増員要望のある業務から着手すると、確認すべき情報を絞れます。
対象業務・必要時期・必要レベル・必要人数をそろえる
「営業力が不足している」「DX人材が必要」といった表現だけでは、現状との比較ができません。実際の業務と、求める遂行条件に落とし込みます。
| 決める項目 | 記入する内容 |
|---|---|
| 対象業務 | 何を担当するのか。業務の範囲や成果物 |
| 必要時期 | いつから、どの期間に必要なのか |
| 必要レベル | どの程度の支援で、どの業務を遂行できる必要があるか |
| 必要人数 | 同じ期間・担当条件で何人必要か。その根拠 |
| 担当条件 | 拠点、勤務時間帯、他業務との兼務、必要な資格など |
例えば「データ分析ができる」ではなく、「指定されたデータを集計し、結果の意味と注意点を説明できる」と定義すると、確認する内容が明確になります。これは説明用の例であり、すべての職種に共通する基準ではありません。
必要人数にも根拠を付けます。業務量から求めた人数なのか、同時に担当する役割の数なのかで、比較方法が変わるためです。
稼働時間や業務量から人数を見積もる方法は、要員計画における必要人数の算定方法で確認できます。
評価基準とデータの基準日をそろえる
必要レベルと現状の評価には、同じ基準を使います。「経験あり」「得意」といった表現だけでは、評価者によって判断が変わりやすくなります。
例えば、次のような行動で区別できます。
- 支援を受けながら、定められた作業を遂行できる
- 通常の業務を一人で遂行できる
- 例外的な状況にも対応できる
段階数や表現は、自社の業務に合わせて決めます。「教えられる能力」など別の能力が必要な場合は、単純に上位段階へ置かず、項目を分けることも検討してください。
評価日も記録しましょう。過去の経験があっても、業務内容や使用する技術が変わっていれば、現在の遂行能力を再確認する必要があります。
必要レベルは、誰が評価しても判断しやすい行動で定義します。個人別の一覧や評価段階の設計を詳しく確認したい場合は、スキルマップの作り方と設計ポイントを参照してください。
必要条件と現状を比較し、不足スキルを判定する
前提を決めたら、現状を確認して不足を判定します。ここでは、実務を進めるための方法として、次の四つの手順を紹介します。
- スキル・経験・評価根拠を集め、未確認を分ける
- 必要レベルを満たす人と、実際に担当できる人を数える
- 不足判定表に差分・制約・確認事項を記録する
- 事業への影響と必要時期から優先順位を決める
1.スキル・経験・評価根拠を集め、未確認を分ける
収集するのは、対象業務の判定に必要な情報です。資格や研修履歴だけでなく、業務をどの条件で遂行できるかを確認します。
| 情報 | 確認する内容 |
|---|---|
| 現在の所属・担当業務 | 対象者の範囲と現在の役割 |
| スキル・習熟度 | 必要な行動基準を満たしているか |
| 業務経験 | 担当した内容、担当時期、支援の有無 |
| 資格・研修履歴 | 資格の有効性、受講内容、実務への適用状況 |
| 評価根拠・評価日 | 実務確認、成果物、上司の確認など |
| 担当可能性 | 必要な期間に担当できるか、配置調整が必要か |
| 未確認事項 | 評価未実施、情報不足、再確認が必要な項目 |
自己申告と上司の確認が一致しない場合は、平均点を取るだけで済ませず、想定している業務や評価基準の違いを確認します。必要に応じて成果物や実務の遂行状況を確認してください。
また、「情報がない」と「スキルがない」は別です。 未評価の人は「未確認」とし、確認担当者と期限を決めます。未確認者をゼロ扱いすると、実際より不足が大きく見える可能性があります。
2.必要レベルを満たす人と、実際に担当できる人を数える
次に、必要な習熟度を満たす人を確認し、その中から対象期間に担当できる人を整理します。
例えば、必要レベルを満たす人が二人いても、一人が別の業務から離れられなければ、現時点で担当可能なのは一人です。この場合、能力の不足だけでなく、配置や業務分担も検討する必要があります。
集計時は、次の条件を確認します。
- 必要な複数のスキルを、同じ人が満たしているか
- 必要な期間・時間帯に担当できるか
- 他の業務と同時に担当することが可能か
- 異動や兼務によって、配置元の業務に不足が生じないか
一人が複数のスキルを持っていても、同じ時間に二つの業務を担当できるとは限りません。業務別の表で同じ人を数える場合は、全体の配置・稼働状況を突き合わせます。
また、二人がそれぞれ一部のスキルを持っていても、一人で完結させる必要がある業務を代替できるとは限りません。分業が可能か、引き継ぎや確認の負担が増えないかも確認してください。
3.不足判定表に差分・制約・確認事項を記録する
判定結果は、人数だけでなく、前提条件と未確認事項を含めて表にまとめます。
以下は説明用の記入例です。人数や条件は仮定であり、実在する企業の事例や業界標準ではありません。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 対象部門 | [対象部門] |
| 対象業務 | 月次データの集計と結果説明 |
| 必要時期・担当条件 | [対象月]に、所定の担当枠を確保できる |
| 必要レベル | 集計・確認・結果説明を一人で遂行できる |
| 必要人数 | 3人。担当枠と業務量を基に設定 |
| 必要レベルを満たす人数 | 2人 |
| 現時点で担当可能な人数 | 1人 |
| 現時点の不足人数 | 2人 |
| 配置上の制約 | 条件を満たす1人は他業務と調整が必要 |
| 未確認事項 | 1人の実務遂行能力を未評価 |
| 次の確認 | 未評価者の確認、兼務調整、育成可能性の検討 |
この例では、担当可能人数との差は二人ですが、直ちに「二人採用する」とは判断できません。兼務の調整や未評価者の確認によって、対応方針が変わる可能性があるためです。
不足人数を「必要人数-担当可能人数」で求められるのは、業務・期間・担当条件をそろえて比較できる場合です。一部の時間だけ担当できる人は、その時間を別欄に記録し、一人として単純に数えないようにします。
習熟度の段階も、足し算で人数に換算しません。「初級者二人が中級者一人分」といった扱いは、業務を分担できる根拠がなければ成立しません。
4.事業への影響と必要時期から対応の優先順位を決める
不足が複数見つかったら、人数の大きさだけで優先順位を決めず、次の条件を比較します。
| 判断軸 | 確認する質問 |
|---|---|
| 事業への影響 | 対応しないと、どの業務・納期・品質に影響するか |
| 必要時期 | いつまでに業務を担当できる状態が必要か |
| 代替可能性 | 他部門、業務分担、手順変更で補えるか |
| 対応に必要な期間 | 育成、採用、配置調整にどの程度かかるか |
| 担当の集中 | 一人に依存しており、不在時に止まる業務はないか |
現在の人数が足りていても、重要な業務を一人しか担当できない場合は、代替要員の育成が課題になります。人数の不足と、業務を継続するための備えは、分けて記録しましょう。
優先順位を決めたら、「何を、いつまでに確認・実施するか」と担当者を付けます。分析表を報告資料として保存するだけで終わらせないことが大切です。
分析結果から、採用・育成・配置・業務見直しを選ぶ
対応方法は、不足の原因と必要時期に合わせて選びます。採用だけ、研修だけと決めず、実行可能な方法を比較しましょう。
| 不足の状態 | 検討する方法 | 判断前に確認すること |
|---|---|---|
| 社内に必要な能力を持つ人がおり、担当調整が可能 | 配置・兼務の見直し | 配置元への影響、本人の意向、稼働時間、引き継ぎ |
| 現在の能力と必要レベルの差が明確で、習得期間を確保できる | 育成 | 実務経験の機会、指導者、到達基準、習得までの期間 |
| 社内で確保できず、必要時期までに育成することも難しい | 採用・外部活用 | 要件の具体性、確保の見込み、立ち上がり期間、費用 |
| 特定業務への集中や重複作業が不足を生んでいる | 業務見直し | 廃止・標準化・分業の可否、変更後の品質や責任分担 |
| 情報が不十分で、不足の実態が分からない | 追加確認 | 未評価者、評価基準の不一致、古いデータ |
育成では「研修に参加する」だけでなく、「どの業務を、どの条件で遂行できるようになるか」を目標にします。受講後に実務で試す機会と、確認する担当者も決めてください。
採用では、不足判定表の必要条件を採用要件に落とし込みます。ただし、すべてを入社時の必須条件にするのではなく、入社後に習得できる能力と分けることも検討します。
配置転換は、移動先の不足が解消しても、移動元に新たな不足が生じる可能性があります。両部門の業務を確認し、全体として実行可能かを判断しましょう。
短期的には業務分担を変え、中期的には育成を進めるなど、複数の施策を組み合わせる方法もあります。
業務別の不足を確認した後、全社で必要な人材タイプと構成を見直す場合は、人材ポートフォリオの作り方と活用を参照してください。本記事の判定表は、その検討に使う情報の一つになります。
分析の誤りを防ぎ、施策後に同じ条件で確認する
不足判定は、データの質や更新状況によって変わります。評価方法と情報の扱いを整え、施策後も比較できる状態にしておきましょう。
自己評価だけの判定、欠損のゼロ扱い、過剰な共有を避ける
自己評価は現状を知る手がかりですが、それだけで配置や育成の判断を確定しないようにします。評価の差がある場合は、本人と上司が同じ業務・条件を想定しているか確認してください。
未入力や未評価は、確認が必要な状態として扱います。古い評価結果も、現在の業務に使えるかを確かめてから判断に用います。
個人を識別できるスキル・評価情報は、個人情報に該当します。収集・利用では利用目的を具体化し、個人データとして管理する場合は、取扱状況に応じた安全管理措置が必要です。詳しい条件は、個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」で確認してください。
実務では、誰が何の判断に使うかを決め、閲覧・編集できる範囲を整理します。経営会議には部門別の集計を示し、個人別の詳細は必要な担当者に限定するなど、用途に応じて共有方法を変えましょう。
分析に不要な健康情報や私生活の詳細まで収集せず、判断に必要な情報へ絞ることも大切です。
更新担当・次回確認日・判定指標を決める
施策を実施した後は、最初と同じ業務条件で確認します。採用人数や研修参加人数だけでは、不足が埋まったかは判断できません。
確認する指標には、次のようなものがあります。
- 必要レベルに到達した人数
- 対象期間に担当可能な人数
- 未評価・未確認の件数
- 代替担当者を確保できていない業務
- 対象業務の品質・納期など、施策の目的に沿った結果
採用した人も、入社直後から必要レベルで担当できるとは限りません。育成した人も、担当する機会がなければ実務での到達状況を確認できないため、立ち上がりや配置まで追います。
更新頻度は、業務の変化と必要時期に合わせて決めます。定期確認に加え、異動、退職、業務変更、研修後などの更新タイミングを設定すると、古い情報の放置を防ぎやすくなります。
最後に、次の項目を点検してください。
- 対象業務・期間・担当条件がそろっている
- 必要レベルと現状を同じ基準で比較している
- 未確認者をスキルなしとして数えていない
- 兼務や複数業務による二重計上を確認した
- 配置元の業務への影響を確認した
- 本人・現場管理者と判断の前提を確認した
- 対応策の担当者・期限・次回確認日が決まっている
- 情報の利用目的と閲覧範囲を整理した
人材不足のスキル分析でよくある質問
Excelでも不足スキルを分析できますか?
対象業務を絞り、評価基準・更新担当・閲覧範囲を決めれば、Excelでも始められます。複数部門での更新や版管理に負担がかかる場合は、管理方法を見直しましょう。まず必要な項目と運用を決めることが先です。
資格や研修受講履歴だけで判定できますか?
それだけでは、実務を遂行できるかまでは判断できません。資格・受講履歴に加え、業務経験や成果物、必要な支援の程度を確認します。法定資格が必要な業務では、習熟度とは別に資格要件を満たしているか確認してください。
人数が足りていればスキル不足はありませんか?
人数とスキルの充足は別です。必要な能力の組合せや習熟度を満たす人がいるか、対象期間に担当できるかを確認します。特定の一人に担当が集中していないかも点検しましょう。
まず一つの業務で、不足判定と対応方針をまとめる
人材不足をスキル分析で見極めるには、必要な習熟度・人数・時期を定義し、現状と比較します。未確認の情報や配置上の制約を分けて記録することで、採用・育成・配置のどこから着手するかを考えやすくなります。
まずは優先度の高い一つの業務で判定表を作り、現場管理者と前提や対応方針を確認してください。
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