人材需給ギャップは、将来必要な人材と、その時点で確保できる人材の差を、職務・習熟度・人数や稼働量の基準をそろえて分析します。現在の在籍人数を引くだけでは、退職や育成にかかる時間、兼務の影響を見落とします。
本記事では、自社内の人材需給を対象に、需要と供給見込みの整理、差分の計算、対応の優先順位までを解説します。まずは重要な一部門・一職務から分析表を作りましょう。
人材需給ギャップは、同じ時点の需要と供給見込みで捉える
本記事でいう人材需給ギャップとは、事業を進めるために必要な人材と、確保・配置できる人材との間にある差です。「何人足りないか」に加えて、必要な能力を持つ人が、必要な部署で、必要な時期に働けるかを確認します。
例えば、翌年度末にある職務を担う人材が8人必要で、現在6人在籍している場合、現在との人数差は2人です。しかし、翌年度末までに1人が退職する予定なら、その時点の供給見込みは5人となり、不足差は3人になります。将来の不足を判断するには、需要と供給の対象時点をそろえる必要があります。
なお、国内の労働市場を対象とする需給推計と、自社内の分析は分けて考えます。厚生労働省の「労働力需給ギャップの推計について」は、統計に基づく労働力需要と供給の推計方法を説明したものです。その算定方法を、自社の必要人数を求める式としてそのまま使うものではありません。
自社の分析では、まず比較する職務や人材区分を決めます。分類軸から整理したい場合は、人材ポートフォリオの分類軸と作り方も参考になります。
分析前に時点・職務・習熟度・集計単位をそろえる
差分を計算する前に、人事と事業部門で比較条件を共有しましょう。部署ごとに「必要な人材」の意味が異なると、全社で集計しても実態を判断できません。
| 確認項目 | 決めておく内容 |
|---|---|
| 基準日・対象時点 | 現状データはいつの情報か、将来のいつを分析するか |
| 職務・役割 | どの業務や成果を担う人材を数えるか |
| 必要な習熟度 | 支援を受けて実施できる、自立して実施できる、指導できるなどの基準 |
| 集計単位 | 人数で比較するか、稼働量で比較するか |
| 対象者の範囲 | 雇用区分、出向者、休業者、外部人材などをどう扱うか |
| 配置の条件 | 兼務、勤務場所、他業務への従事、異動可能性をどう確認するか |
人数と稼働量は区別します。フルタイム勤務者1人分を1.0とするFTE(フルタイム換算)で比較する場合、基準となる労働時間と、対象職務に割り当てられる時間を明確にします。
例えば、同じ期間に対象職務へ半分の時間を充てる人は、その職務では0.5FTEと数えます。二つの職務を兼務する人を、両方で1.0FTEとして計上しないようにしてください。
一方、特定資格を持つ責任者が何人必要かを確認する場合などは、FTEだけでは判断できません。職務に応じて、人数・資格・稼働量を分けて記録します。
人材需給ギャップを分析する5つの手順
分析は、次の順に進めると需要と供給の根拠を追いやすくなります。
- 事業計画から必要な役割・人数・時期を定める
- 現在の人材を職務要件に照らして確認する
- 退職・異動・育成を踏まえた将来供給を見積もる
- 数量・能力・配置・時期のずれを比較する
- 事業への影響と充足期限で優先順位を決める
1.事業計画から必要な役割・人数・時期を定める
需要は、部門の増員要望だけで決めず、事業計画を実行するための業務と役割から整理します。
「営業職を増やしたい」という要望なら、対象顧客、予定案件数、必要な活動、既存社員の対応可能量まで確認します。新しい事業では、現在の職種名に当てはめる前に、必要な業務を分解して役割を定義しましょう。
需要の根拠として、少なくとも次を残します。
- 対象事業と予定業務量
- 必要な職務・スキル・経験
- 必要人数または必要稼働量
- 人材が必要になる時期
- 生産性や業務変更についての前提
業務量を稼働時間に換算できる場合は、「必要な業務時間÷1人が対象業務に充てられる時間」を見積もりの出発点にできます。ただし、繁閑、習熟度、品質要件、予算などの確認が必要です。すべての職務に同じ式を当てはめることはできません。
算定から計画への反映は、必要人数の算定と要員計画の作り方で確認できます。
2.現在の人材を職務要件に照らして確認する
供給の出発点は、在籍者の人数ではなく、対象職務を担える人材の状況です。所属や職種名だけで判断せず、必要なスキル、実務経験、資格、習熟度を確認します。
例えば、同じ職種に6人いても、必要な業務を自立して進められる人が4人なら、当該要件を満たす人数は4人です。育成中の2人は、現時点の適格者とは分けて記録します。
習熟度は自己申告だけで決めず、実務経験や現場の確認を組み合わせます。評価基準、確認者、確認日を残すと、後から判断の理由を説明できます。情報整備から始める場合は、スキルデータの項目設計と収集方法を参照してください。
また、能力があることと、配置できることは別です。他業務の担当状況、異動元の体制、本人の意向なども確認します。情報が不足している人は「不明」とし、能力不足と同じ扱いにしないことが大切です。
3.退職・異動・育成を踏まえた将来供給を見積もる
現在の状況を把握したら、対象時点までの変化を反映します。将来供給の基本的な整理は、次のとおりです。
将来供給見込み=現在の適格者数+対象時点までに要件を満たし配置できる人材-対象職務から離れる人材
加減する要素には、退職、異動、復職、採用、育成などがあります。実際の計算では、同じ人を「採用」と「育成完了」の両方に加えるなどの重複を避けてください。FTEを使う場合は、同じ単位で増減を計算します。
重要なのは、計画があるだけで供給を確定しないことです。採用予定者が必要時期までに入社し、職務を担えるか。育成対象者が研修を受けるだけでなく、必要な習熟度に達するか。成立条件を確認します。
見込みは、次のように分けて記録すると判断しやすくなります。
| 区分 | 記録する内容 |
|---|---|
| 確定事項 | 決定済みの異動や退職など。対象時点と職務への影響も確認する |
| 条件付きの見込み | 採用成立、育成完了、異動承認など、成立条件を明記する |
| 未決定の対応案 | 今後検討する採用・育成・配置。現状の供給に混ぜない |
退職率などから集団単位の見込みを置く場合は、使用した期間と対象者、推計上の前提を残します。集団の傾向から個人の退職を断定することは避けましょう。
4.数量・能力・配置・時期のずれを比較する
本記事では、差分を次の式で表します。
不足差=需要-供給見込み
正の値なら不足、0なら数量上は一致、負の値なら数量上の超過です。ただし、人数が一致していても、次のずれが残っていれば充足とは判断できません。
| 分析の観点 | 確認するずれ |
|---|---|
| 数量 | 必要人数・稼働量に対して供給が足りるか |
| 能力 | 必要な職務要件や習熟度を満たしているか |
| 配置 | 必要な部署・業務に配置できるか |
| 時期 | 必要時期までに入社・育成・異動が間に合うか |
全社の合計だけで不足と超過を相殺しないようにします。別部署に人材がいても、能力や稼働条件が異なれば、すぐに補えるとは限りません。
不確実な前提がある場合は、基本シナリオに加えて、需要が増えた場合や採用・育成が遅れた場合を比較します。変更した前提を明示し、「一つの予測値が必ず実現する」と扱わないことが大切です。
5.事業への影響と充足期限で優先順位を決める
不足人数の多さだけで対応順を決めると、少人数でも事業に大きく影響する職務を見落とします。優先順位は、不足の大きさに加えて、事業への影響、必要時期、確保にかかる期間から判断しましょう。
| 判断項目 | 確認する質問 |
|---|---|
| 事業への影響 | 不足すると、どの業務・成果・品質に影響するか |
| 充足期限 | いつまでに職務を担える状態が必要か |
| 確保に必要な期間 | 採用、育成、異動にどの程度の期間が必要か |
| 対応可能性 | 社内配置や業務変更で補えるか |
| 見込みの確かさ | 判断に使った情報は確定か、条件付きか |
期限内に育成できるなら育成を、社内に適格者がいて異動元の体制も維持できるなら配置変更を検討します。どちらでも間に合わない場合は、採用や外部人材の活用、業務範囲の見直しなどを比較します。
不足差をそのまま採用人数に置き換えず、対応方法ごとの成立条件と期限を確認してください。最終的には、判断者、担当者、確認期限を決め、未確定の事項を残したまま実行を確定しないようにします。
分析表では差分と前提をセットで記録する
分析表には結果だけでなく、需要と供給をどう見積もったかを記録します。次の項目を用意すると、事業部門との確認や更新に使いやすくなります。
| 項目 | 記入内容 |
|---|---|
| 対象条件 | 基準日、対象時点、部門・職務、必要習熟度、集計単位 |
| 需要 | 必要人数・稼働量、業務量や事業計画の根拠 |
| 供給見込み | 現在の適格者、増減の内訳、配置可能性 |
| 不足差 | 需要-供給見込み |
| 見込みの条件 | 確定・条件付きの区分、採用や育成の成立条件 |
| 対応 | 対応案、充足期限、担当者、決定状況 |
| 更新管理 | 情報元、確認者、更新日、次回確認日 |
以下は計算方法を示すサンプルです。実在企業の事例や公的な指定様式ではありません。
前提:〔対象職務〕を〔対象時点〕までに自立して担える人材が8人必要。現在の適格者は6人で、対象時点までに1人が退職予定。
| シナリオ | 供給見込みの計算 | 供給見込み | 不足差 |
|---|---|---|---|
| 新たな対策を含めない | 現在6人-退職予定1人 | 5人 | 3人 |
| 育成案が成立する場合 | 5人+育成完了見込み2人 | 7人 | 1人 |
育成案では、2人が必要な習熟度に達し、対象職務へ配置できることが条件です。研修の受講予定だけで供給を確定せず、条件が成立しなかった場合の不足差も残します。
需給差を確認した後は、対応策と実施時期を計画に落とし込みます。人員計画テンプレートと記入方法を使う場合は、同記事の「過不足=供給-需要」と、本記事の「不足差=需要-供給」で符号が逆になる点に注意してください。
分析を確定する前に、次を確認しましょう。
- 需要と供給の対象時点・集計単位は同じか
- 職務要件と習熟度をそろえて比較しているか
- 兼務者や複数スキル保有者を重複計上していないか
- 採用・育成の見込みと確定事項を分けたか
- 不明な情報をゼロや不足として処理していないか
- 事業部門が需要の根拠と配置条件を確認したか
分析結果は施策の進捗と事業条件の変化で見直す
分析表は、一度作って終わりではありません。採用・育成・異動の進捗に加え、事業計画や業務量が変わったときに更新します。
例えば、採用が遅れた場合は供給見込みを、新規案件が増えた場合は需要を修正します。「不足差が縮まった」という結果だけでなく、供給が増えたのか、需要が減ったのかを分けて確認しましょう。
更新の周期は、自社の事業・人員計画の見直しに合わせて決めます。組織改編、退職予定の判明、事業計画変更などがあった場合は、定例の更新日を待たずに見直せるようにします。
会議では、前回との差、未成立の条件、期限に間に合わない対応案を確認します。共有画面を整える方法は、人事データのダッシュボード設計で補足しています。個人別の情報と集計結果は分け、利用目的に応じて閲覧範囲も決めてください。
元データの更新に負担がかかる場合は、人事情報の管理方法も点検しましょう。サイレコの公式サイトには、管理項目をカスタマイズできる従業員管理、基準日を設定する組織構成の履歴検索、組織図、人事異動シミュレーションが掲載されています。これらは情報管理や配置案の確認を支える機能として検討できます。利用できる範囲は契約条件を確認し、需給予測や最適配置を自動決定する機能としては扱わないでください。
人材需給ギャップ分析でよくある質問
現在の人数と必要人数を引くだけでよいですか?
現状の一次診断には使えますが、将来の分析では同じ対象時点の供給見込みと比較します。退職・異動による増減、必要な習熟度、配置可能性、稼働量も確認してください。人数が一致していても、必要時期に職務を担えなければ不足は残ります。
スキルデータが十分にない場合はどうしますか?
重要な職務に絞り、その職務を担うための要件と実務確認から始めます。最初から全社員・全スキルを調べる必要はありません。確認できていない情報は「不明」と記録し、追加確認が必要な範囲と担当者を決めましょう。
不足差をそのまま採用人数にしてよいですか?
そのまま採用人数にはしません。期限内の育成、社内配置、業務変更などで補える部分を確認し、採用で確保する範囲を決めます。採用する場合も、入社時期だけでなく、必要な職務を担えるようになるまでの期間を考慮してください。
まとめ|一つの職務から需要・供給・前提をそろえて分析する
人材需給ギャップの分析では、同じ将来時点の需要と供給見込みを、職務・習熟度・人数や稼働量の基準をそろえて比較します。差分だけでなく、配置可能性、充足時期、見込みの成立条件まで確認することが大切です。
まずは重要な一職務を選び、需要と供給見込み、判断の前提を分析表に記入しましょう。その結果を事業部門と確認し、対応方法と期限を決めてください。
分析に使う従業員情報や組織構成の更新に課題がある場合は、サイレコの機能紹介で、情報管理や配置案の確認に使える機能をご確認ください。