コンピテンシーモデルを作るときは、一般的な能力や理想的な人物像を並べるだけでは、実際の人事評価や人材育成には活用しにくくなります。重要なのは、自社で成果を上げている人材の行動を分析し、「どのような状況で、どのような行動を取ったのか」を具体的な基準として整理することです。
基本的には、①目的・対象を決める、②対象となる人材を選ぶ、③成果につながる行動を集める、④共通する行動を整理する、⑤具体的な行動基準にする、⑥現場で検証する、⑦評価・育成に組み込むという流れで作成します。
この記事では、コンピテンシーモデルの基本から具体的な作り方、行動基準の作成例、失敗しやすいポイント、評価・育成への活用方法まで、人事担当者が実務で使える形で解説します。
この記事のポイント
- コンピテンシーモデルは「成果につながる行動」を自社基準で整理する
- 作成時は高業績者の行動を分析し、抽象的な能力を具体的な行動へ変換する
- 職種・役職・等級によって期待する行動が異なるため、必要に応じてモデルを分ける
- 作成後は人事評価や人材育成に組み込み、実際に使えるか検証する
コンピテンシーモデルとは?成果につながる行動を基準化したもの
コンピテンシーモデルとは、特定の仕事や役割で高い成果を上げる人に共通する行動特性を整理し、モデル化したものです。
単に「能力が高い人」「優秀な人」の特徴をまとめるのではなく、成果につながった具体的な行動を明らかにすることがポイントです。
例えば、「主体性」という項目を設定するだけでは、評価する人によって意味が変わってしまいます。
| 抽象的な表現 | 具体的な行動基準 |
|---|---|
| 主体性がある | 担当業務の課題を自ら発見し、原因と改善案を整理したうえで関係者に提案する |
| 協調性がある | 関係者の役割や意見を確認し、必要な調整を行いながら業務を進める |
| 顧客志向がある | 顧客の要望だけでなく背景にある課題を確認し、必要な対応を提案する |
このように、コンピテンシーモデルでは「どのような能力を持っているか」だけでなく、その能力が仕事の中でどのような行動として表れるのかまで明確にすることが重要です。
コンピテンシーとスキル・能力の違い
スキルは、業務を遂行するために必要な知識や技術を指します。一方、コンピテンシーは、知識やスキルを含めた個人の特性が、実際の仕事上の行動や成果としてどのように表れるかという視点で捉えます。
| 項目 | 主な意味 | 例 |
|---|---|---|
| 知識 | 業務に必要な情報・理解 | 商品知識、法務知識 |
| スキル | 業務を遂行するための技術 | 営業スキル、分析スキル |
| コンピテンシー | 成果につながる行動特性 | 顧客課題を把握して提案につなげる |
そのため、コンピテンシーモデルは人事評価だけでなく、人材育成、配置、キャリア形成などにも活用できます。
コンピテンシーモデルを作る目的を最初に決める
作成前に必ず決めたいのが、「何のためにコンピテンシーモデルを作るのか」という目的です。
目的が曖昧なまま作成すると、項目を増やすこと自体が目的になり、完成後に人事評価や育成で使われなくなる可能性があります。
| 目的 | 重視するポイント |
|---|---|
| 人事評価 | 評価者が判断できる具体的な行動基準 |
| 人材育成 | 現在の行動と期待する行動との差 |
| 管理職育成 | マネジメント上の期待行動 |
| 採用 | 自社で活躍しやすい人材の行動特性 |
| タレントマネジメント | 人材の能力・行動と配置・育成の接続 |
特に最初に作る場合は、すべての人事施策を対象にするのではなく、「営業職の評価に使う」「管理職育成に使う」など対象を絞ると設計しやすくなります。
コンピテンシーモデルの作り方7ステップ
コンピテンシーモデルは、次の7ステップで作成すると整理しやすくなります。
- 目的と対象範囲を決める
- 分析対象となる人材を選ぶ
- 成果につながった行動を収集する
- 行動を分類・整理する
- 抽象的な能力を具体的な行動基準に変える
- 現場で使えるか検証する
- 評価・育成などの制度に組み込む
STEP1:コンピテンシーモデルの目的と対象範囲を決める
最初に、「誰に対して、何のために使うモデルなのか」を決めます。
例えば、営業職の人事評価に使うのであれば、営業成果につながる行動を中心に分析します。管理職育成が目的なら、部下の育成や目標設定、意思決定などの行動に焦点を当てます。
この段階では、次の項目を整理しておくとよいでしょう。
- 対象となる職種
- 対象となる役職・等級
- モデルを使用する目的
- 評価・育成などの利用場面
- モデルを適用する範囲
職種や役割が大きく異なる場合は、全社共通のモデルだけで対応しようとせず、共通コンピテンシーと職種別・役職別コンピテンシーを分ける方法もあります。
STEP2:成果を上げている人材を選定する
次に、コンピテンシーを分析する対象者を選びます。
一般的には、高い成果を継続的に上げている人材を中心に分析します。ただし、「成績が高い人をそのまま理想の人材とする」という意味ではありません。
例えば、短期的な売上だけでなく、顧客との関係性、チームへの貢献、後輩育成なども含めて、会社が求める成果を定義する必要があります。
対象者を選ぶときは、次のような情報を組み合わせて判断します。
- 業務上の成果
- 目標達成状況
- 上司・同僚からの評価
- 継続的な成果
- 組織への貢献
重要なのは、単純に「トップ営業だから対象にする」のではなく、自社が再現したい成果や行動を持っている人材を選ぶことです。
STEP3:成果につながった具体的な行動を収集する
対象者を決めたら、「なぜ成果を上げられたのか」を具体的な行動まで掘り下げます。
インタビューや評価記録、業務記録などを活用し、実際に起きた出来事を集めます。
インタビューでは、単に「仕事ができる理由は何ですか?」と聞くより、具体的な出来事を聞くことが重要です。
例えば、営業職であれば次のような質問が考えられます。
- 最も成果につながった仕事は何だったか
- そのとき、最初に何をしたか
- どのような情報を確認したか
- 誰とどのように連携したか
- 問題が起きたとき、どう判断したか
- 他の方法ではなく、その方法を選んだ理由は何か
- 結果として何が変わったか
このように「考え方」だけでなく、状況→行動→結果の流れで整理すると、コンピテンシーとして使いやすい情報が集まります。
STEP4:収集した行動を分類し、共通する特徴を整理する
行動を集めたら、似ているものをまとめます。
例えば、次のような行動が複数の社員に共通していたとします。
- 顧客の要望だけでなく背景を確認している
- 顧客自身が気づいていない課題を質問から見つけている
- 課題に合わせて提案内容を変更している
これらを整理すると、「顧客理解」「課題発見」「提案力」などのコンピテンシーに分類できます。
ただし、この段階で「コミュニケーション力」「主体性」「問題解決力」といった一般的な言葉だけに置き換えて終わらないことが重要です。
抽象化した後に、元となった具体的な行動へ戻れる状態を維持しましょう。
STEP5:抽象的な能力を具体的な行動基準に変換する
コンピテンシーモデル作成で特に重要なのが、この工程です。
例えば「主体性」というコンピテンシーを設定した場合、それだけでは評価者によって判断が変わります。
| コンピテンシー | 曖昧な基準 | 具体的な行動基準 |
|---|---|---|
| 主体性 | 自ら積極的に行動する | 担当業務の課題を発見し、原因と改善案を整理して関係者に提案する |
| 協働性 | 周囲と協力する | 関係者の役割や意見を確認し、必要な調整を行って業務を進める |
| 課題解決力 | 問題を解決する | 問題の原因を整理し、複数の対応策を比較したうえで実行する |
| 顧客志向 | 顧客を大切にする | 顧客の要望だけでなく背景にある課題を確認し、適切な対応を提案する |
行動基準を作る際は、「何をするのか」だけでなく、どのような状況で、どの程度の行動を期待するのかまで考えると、評価に活用しやすくなります。
STEP6:現場で評価・育成に使えるか検証する
モデルを完成させる前に、実際に現場で使えるか確認します。
特に確認したいのは、次のポイントです。
- 評価者によって解釈が大きく変わらないか
- 実際の業務で観察できる行動になっているか
- 対象となる職種・等級に合っているか
- 項目数が多すぎないか
- 本人へのフィードバックに使えるか
- 育成課題の設定につなげられるか
人事部門だけで確認するのではなく、管理職や現場社員にも見てもらい、実務とのズレを確認することが重要です。
STEP7:評価・育成などの制度に組み込み、定期的に見直す
コンピテンシーモデルは、作成して終わりではありません。
人事評価に組み込む場合は、評価項目や評価基準、フィードバックの方法などと整合させます。人材育成に使う場合は、研修やOJT、1on1などで期待行動を確認できるようにします。
また、事業環境や仕事内容が変われば、求められる行動も変わります。そのため、運用後も評価者や現場から意見を集め、必要に応じてモデルを見直します。
コンピテンシーモデルの作成例
例えば、営業職向けのコンピテンシーモデルを作る場合を考えてみましょう。
| コンピテンシー | 期待する行動 | 行動の例 |
|---|---|---|
| 顧客理解 | 顧客の状況や課題を把握する | 商談前に顧客情報を確認し、質問を準備する |
| 課題発見 | 顧客の潜在的な課題を整理する | 要望の背景を質問し、課題の原因を整理する |
| 提案力 | 課題に応じた提案を行う | 顧客の状況に合わせて提案内容や優先順位を調整する |
| 関係構築 | 継続的な信頼関係を築く | 契約後も状況を確認し、新たな課題を把握する |
このように作成すると、「提案力がある」「顧客志向が高い」といった抽象的な評価ではなく、実際にどのような行動を取ったかを確認できます。
役職・等級によってコンピテンシーモデルを変えるべき?
すべての社員に同じコンピテンシーをそのまま適用する必要はありません。
例えば、「主体性」という共通項目でも、一般社員と管理職では期待する行動が異なります。
| 対象 | 主体性の行動例 |
|---|---|
| 一般社員 | 担当業務の課題を発見し、改善案を提案する |
| リーダー | チームの課題を把握し、メンバーと改善策を実行する |
| 管理職 | 組織課題を特定し、関係部署を巻き込みながら解決を推進する |
このように、全社共通の価値観や行動を設定しながら、職種・役職・等級ごとに期待水準を変える方法があります。
重要なのは、単純に項目を増やすのではなく、その役割に本当に必要な行動なのかという視点で設計することです。
コンピテンシーモデル作成でよくある5つの失敗
1.一般的なコンピテンシーをそのまま使う
「主体性」「協調性」「リーダーシップ」などは便利な言葉ですが、自社で何を意味するのかが決まっていなければ評価基準として機能しません。
対策:自社の成果につながった具体的な行動から定義する。
2.項目を増やしすぎる
多くの行動を盛り込むほど精度が高くなるとは限りません。項目が増えすぎると、評価者の負担が増え、重要な行動が分かりにくくなります。
対策:目的に直接関係する重要な行動へ絞り込む。
3.ハイパフォーマーの行動をそのまま全員に求める
高業績者の行動には参考になるものが多い一方、その人の経験や担当顧客、役割などに依存した行動も含まれます。
対策:複数の対象者を比較し、再現性のある行動を抽出する。
4.人事部門だけで完成させる
制度として整っていても、現場の実態と合っていなければ使われません。
対策:管理職や現場社員を巻き込み、実際の業務で観察できる基準か確認する。
5.作成後に見直さない
事業環境や仕事内容、人材に求める役割は変化します。古い行動基準を使い続けると、現在の経営戦略と評価・育成の間にズレが生じる可能性があります。
対策:評価運用や事業環境の変化を踏まえて定期的に見直す。
コンピテンシーモデルを人事評価に活用する方法
コンピテンシーモデルを人事評価に活用する場合は、設定した項目をそのまま評価項目にするのではなく、どの水準の行動を期待するのかまで整理することが重要です。
例えば「課題解決力」という項目であれば、次のように行動水準を設定できます。
| 水準 | 行動例 |
|---|---|
| 基本 | 発生した問題を整理し、上司へ報告する |
| 標準 | 原因を分析し、自分で対応策を考えて実行する |
| 高水準 | 将来的な問題を予測し、関係者を巻き込んで予防策を実行する |
こうした基準があると、評価者が「なんとなく課題解決力が高い」と判断するのではなく、実際の行動をもとに評価しやすくなります。
人事評価制度そのものの設計や見直しについては、評価項目だけでなく、評価方法やフィードバック、運用体制まで含めて検討する必要があります。
コンピテンシーモデルを人材育成につなげる方法
コンピテンシーモデルは、評価だけでなく人材育成にも活用できます。
例えば、期待する行動と本人の現在の行動を比較すると、どこに育成上の課題があるのかを整理できます。
- 期待する行動ができている
- 知識はあるが行動に移せていない
- 行動はしているが成果につながっていない
- そもそも期待される行動を理解していない
この差をもとに、OJT、研修、1on1、業務経験などを組み合わせれば、単に研修を受けさせるだけではなく、期待する行動を実際の業務で身につける育成につなげやすくなります。
コンピテンシーモデルの運用では人事情報の管理も重要
コンピテンシーモデルを継続的に活用するには、評価結果や人材情報を適切に管理し、必要な場面で参照できる状態を整えることも重要です。
例えば、評価結果や従業員情報を個別に管理していると、過去の評価や育成状況を確認するための作業が増えます。
人事管理システムを活用する場合は、従業員情報や評価情報を一元的に管理し、評価・育成などの人事業務で活用する方法があります。
サイレコでは、従業員情報の管理に加えて、評価シートの作成・配布・回収、評価ポイントの調整、管理項目のカスタマイズ、情報の集計・可視化などの機能が提供されています。また、料金ページでは「コンピテンシー評価」が評価機能のオプションとして掲載されています。
コンピテンシーモデルそのものを作ることと、作成した基準を継続的に運用することは別の課題です。モデルを制度として定着させる場合は、現在の人事業務や評価運用に適した管理方法も合わせて検討するとよいでしょう。
コンピテンシーモデル作成のチェックリスト
最後に、作成前から運用開始までのチェックポイントを整理します。
- コンピテンシーモデルを作る目的が明確になっている
- 対象となる職種・役職・等級が決まっている
- 成果の定義が明確になっている
- 高い成果につながった実際の行動を収集している
- 複数の人材を比較して共通する行動を抽出している
- 抽象的な言葉だけで行動基準を設定していない
- 実際の業務で観察できる行動になっている
- 職種・役職・等級に応じた期待水準を検討している
- 現場の管理職や社員から意見を集めている
- 人事評価や育成施策とのつながりを整理している
- 運用後に見直す仕組みを決めている
コンピテンシーモデルの作り方に関するFAQ
コンピテンシーモデルは誰が作るべきですか?
人事部門だけで完結させるのではなく、人事制度の担当者と現場の管理職・社員が協力して作る方法が適しています。人事部門は制度全体との整合性を確認し、現場は実際の業務で再現できる行動かどうかを確認します。
コンピテンシーモデルは全社員共通にすべきですか?
必ずしも全社員に同じモデルを適用する必要はありません。全社共通のコンピテンシーを設定したうえで、職種・役職・等級ごとに期待する行動や水準を変える方法があります。
コンピテンシーモデルとコンピテンシー評価は同じものですか?
同じではありません。コンピテンシーモデルは、成果につながる行動特性を整理した「基準・モデル」です。コンピテンシー評価は、その基準をもとに従業員の行動を評価する仕組みを指します。
コンピテンシーモデルは一度作れば変更する必要はありませんか?
定期的な見直しが必要です。事業戦略、仕事内容、組織構造、人材に求められる役割などが変われば、成果につながる行動も変わる可能性があります。評価運用で生じた課題や現場の意見も確認しながら更新しましょう。
まとめ|コンピテンシーモデルは「成果につながる行動」から設計する
コンピテンシーモデルの作り方で最も重要なのは、一般的な能力項目を並べることではありません。自社で成果を上げている人材の行動を分析し、再現性のある行動を具体的な基準として整理することが重要です。
作成するときは、次の7ステップを基本に進めます。
- 目的と対象範囲を決める
- 分析対象となる人材を選ぶ
- 成果につながった行動を収集する
- 行動を分類・整理する
- 抽象的な能力を具体的な行動基準に変える
- 現場で使えるか検証する
- 評価・育成などの制度に組み込む
特に重要なのは、「主体性」「協調性」「課題解決力」などの抽象的な言葉で終わらせず、実際の業務で何をすればよいのかが分かる行動まで落とし込むことです。
また、コンピテンシーモデルは作成しただけでは人材マネジメントの成果につながりません。人事評価や育成、1on1などの施策と結び付け、現場で継続的に活用しながら必要に応じて見直すことが大切です。
人事評価や従業員情報を含めた人事業務の効率化を検討する場合は、人事管理システムによる情報の一元管理や評価業務の効率化も選択肢になります。