ガバナンスとは、組織が健全かつ持続的に運営されるよう、意思決定を監督し、権限・責任・ルール・情報開示の仕組みを整えることです。ビジネスでは、主に「コーポレートガバナンス(企業統治)」を指します。
コンプライアンスや内部統制、リスクマネジメントと関係しますが、それぞれの意味や役割は異なります。本記事では、ガバナンスの基本的な意味と類似用語との違い、企業がガバナンスを強化する手順について解説します。
ガバナンスとは、組織を適切に統治・監督する仕組み
ガバナンス(governance)は、「統治」「管理」などを意味する言葉です。企業においては、経営者や特定の部門だけに権限が集中することを防ぎ、適切な意思決定が行われるように監督する仕組みを指します。
ガバナンスを機能させるには、社内規程を作るだけでは不十分です。次のような仕組みを相互に連動させる必要があります。
- 誰が何を決定できるかを示す権限と責任
- 意思決定を確認・監督する体制
- 申請、承認、報告を適切に行う業務プロセス
- 判断に必要な情報を正確に共有する仕組み
- 問題を発見し、改善につなげる監査・検証体制
ガバナンスには、不正や不祥事を防ぐ「守り」の側面だけでなく、経営判断の質を高め、企業の持続的な成長を支える側面もあります。
ビジネスでは主にコーポレートガバナンスを指す
日本のビジネスで「ガバナンス」という場合は、多くの場合、コーポレートガバナンスを意味します。
東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードでは、会社が株主をはじめとするステークホルダーの立場を踏まえ、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みとして、コーポレートガバナンスを捉えています。
ガバナンスで考慮するステークホルダーは、株主だけではありません。従業員、顧客、取引先、地域社会など、企業活動から影響を受けるさまざまな関係者が含まれます。
2026年7月21日には、金融庁と東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードの2026年改訂版を公表しました。改訂版では、企業の中長期的な価値向上に向けた成長投資を促す観点などから、コード全体の構成が見直されています。
なお、同コードは法律そのものではありません。東京証券取引所では、プライム市場・スタンダード市場の上場会社については全原則、グロース市場の上場会社については基本原則を対象として、実施しない原則がある場合に理由を説明することを求めています。
参考:金融庁「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定について」
参考:東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」
「ガバナンスを効かせる」とはどういう状態か
「ガバナンスを効かせる」とは、規程や組織図が存在するだけでなく、経営や日常業務のなかで統治・監督の仕組みが実際に機能している状態を指します。
例えば、重要な投資を行う際、担当者だけで判断するのではなく、定められた基準に従って審査し、適切な決裁者が承認する仕組みが必要です。判断の根拠や承認過程を記録し、後から検証できることも重要になります。
問題が判明した場合には、責任者へ速やかに報告し、原因を調査して是正するところまで機能していなければなりません。
つまり、次の流れが継続的に動いていることが、ガバナンスの実効性を判断する一つの基準です。
- 判断基準を定める
- 定められた権限に基づいて意思決定する
- 決定と実行の過程を記録する
- 別の立場から監督・検証する
- 問題があれば是正し、仕組みを見直す
ガバナンスと類似用語は目的と役割が異なる
ガバナンスは、コンプライアンス、内部統制、リスクマネジメントと混同されることがあります。それぞれ独立した概念ですが、企業を健全に運営するうえで相互に関係しています。
| 用語 | 主な意味・目的 | 主な対象 | 具体例 | ガバナンスとの関係 |
|---|---|---|---|---|
| ガバナンス | 組織全体を適切に統治・監督する | 経営・組織全体 | 取締役会による監督、責任権限の明確化 | 全体を統治する枠組み |
| コンプライアンス | 法令、社内規程、社会規範などを守る | 企業・役員・従業員の行動 | 法令研修、相談・通報体制 | ガバナンスを支える重要な要素 |
| 内部統制 | 業務を適正かつ効率的に遂行する仕組みを整える | 社内の業務・組織 | 職務分掌、承認フロー、相互確認 | ガバナンスを業務面から支える |
| リスクマネジメント | リスクを特定・評価し、適切に対応する | 経営上・業務上のリスク | 情報漏えい対策、BCP、事故対応 | ガバナンスに必要な管理活動の一つ |
コンプライアンスは法令・規程・社会規範を守ること
コンプライアンスは、一般に「法令遵守」と訳されます。企業実務では、法律だけでなく、社内規程、契約、企業倫理、社会規範などに従って行動することまで含めて使われます。
一方、ガバナンスは、役員や従業員がコンプライアンスを実践できるよう、監督・報告・教育・是正の体制を整えることを含む、より広い概念です。
例えば、従業員に「法令を守るように」と伝えることだけでは、十分なガバナンスとはいえません。相談窓口や内部通報制度を整備し、問題が報告された場合の調査担当者、報告先、是正手順を明確にする必要があります。
内部統制は適正な業務を支える社内の仕組み
内部統制とは、企業が業務の有効性・効率性や財務報告の信頼性などを確保するため、社内に整備・運用する仕組みです。
具体例には、次のようなものがあります。
- 申請者と承認者を分ける
- 一定額以上の契約は複数人で確認する
- 担当者ごとにシステムのアクセス権限を設定する
- 業務の実施結果や承認記録を保存する
- 定期的に内部監査を行う
ガバナンスが企業全体の統治・監督の枠組みであるのに対し、内部統制は、その方針を日々の業務で実行するための具体的な仕組みと整理できます。
なお、会社法上の内部統制システムに関する義務は、会社の規模や機関設計などによって異なります。また、金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制報告制度にも対象条件があります。すべての企業に同じ義務が課されるわけではないため、自社への適用については最新法令を確認し、必要に応じて弁護士や公認会計士などの専門家へ相談してください。
リスクマネジメントはリスクを特定・評価・対応する活動
リスクマネジメントとは、企業活動に伴うリスクを特定・評価し、回避、低減、移転、受容などの対応を選ぶ活動です。
対象となるリスクには、情報漏えい、自然災害、法令違反、労務問題、取引先の倒産、サプライチェーンの停止などがあります。
ガバナンスでは、誰がリスク管理に責任を持ち、重要なリスクをどこへ報告し、経営層がどのように監督するかを定めます。リスクマネジメントは、その枠組みに基づいて個別のリスクを管理する活動と位置づけられます。
ガバナンスが必要なのは不正防止だけでなく意思決定の質を支えるため
ガバナンスの目的を「不正を防止すること」だけに限定すると、承認手続きや禁止事項を増やすことが中心になりがちです。しかし、本来の役割はそれだけではありません。
適切なガバナンスには、次のような目的があります。
- 経営者や特定部門への過度な権限集中を防ぐ
- 意思決定の透明性と公正性を確保する
- 重要なリスクを経営層が把握できるようにする
- 株主や従業員などへの説明責任を果たす
- 問題を早期に発見し、適切に是正する
- 必要な情報に基づく迅速な意思決定を支える
統制を強くすること自体が目的ではありません。確認や承認を過剰に増やすと、責任の所在がかえって曖昧になり、意思決定が遅れる可能性があります。
重要なのは、企業の規模、事業内容、リスクの大きさに応じて、適切な監督と意思決定のバランスを取ることです。
権限の集中や不透明な意思決定を防ぐ
一人の担当者が取引先の選定から契約、支払いの承認まで担当している場合、誤りや不正が生じても発見しにくくなります。
職務分掌によって実行者と承認者を分けたり、重要な事項を会議体で審議したりすることは、相互牽制を働かせる方法の一つです。
ただし、すべての業務に複数段階の承認を設ける必要があるとは限りません。金額、情報の機密性、法令違反が生じた場合の影響などを踏まえ、重要度に応じた権限設計が必要です。
判断過程を記録し、説明責任を果たす
意思決定の結果だけでなく、「どの情報を使い、誰が、どのような理由で決めたか」を記録することも重要です。
判断過程が残っていれば、後から妥当性を検証しやすくなります。社内外への説明が必要になった場合にも、客観的な根拠を示せます。
記録は担当者を責めるためだけのものではありません。過去の判断から学び、次の意思決定を改善するための情報にもなります。
ガバナンスを機能させるには5つの要素を連動させる
ガバナンスは、一つの規程やシステムだけで実現するものではありません。少なくとも、次の5つの要素を連動させる必要があります。
1.方針とルールを明確にする
最初に、企業として何を重視し、どのような基準で判断するかを明確にします。
基本方針、社内規程、職務権限規程、行動規範などが該当します。通常時のルールだけでなく、例外を認める条件や、緊急時の決裁方法も定めておくことが重要です。
ルール同士に矛盾がないか、現場が理解できる内容になっているかも確認します。
2.責任・権限と監督体制を明確にする
誰が決定し、誰が実行し、誰が監督するのかを整理します。
部門名だけでなく、役職や会議体ごとに決裁権限を定めることが大切です。取締役会、経営会議、各部門、内部監査部門などの役割が重複していないか、監督する側が実行部門から適切に独立しているかも確認します。
3.承認・報告・記録のプロセスを整える
方針と権限を日常業務に落とし込みます。
例えば、人事異動では、異動案を作成する担当者、部門間の調整者、最終決裁者、従業員情報の更新担当者を明確にします。申請内容、承認結果、変更内容を記録し、後から確認できる状態を整えることも必要です。
4.必要な情報を正確かつ適時に共有する
適切な意思決定には、正確な情報が欠かせません。
データの入力・更新責任者、閲覧できる範囲、報告の時期を決め、古い情報や不完全な情報に基づいて判断することを防ぎます。一方で、必要以上に情報を共有すると、個人情報や機密情報の漏えいリスクが高まります。
利用目的と役割に応じて、情報へのアクセス範囲を設定することが重要です。
5.監査・評価・是正によって実効性を確認する
規程や承認フローを作った後は、実際に守られているかを定期的に検証します。
確認するのは、規程への適合だけではありません。不要な承認が業務を遅らせていないか、現場で例外処理が常態化していないか、問題が適切に報告されているかも確認します。
検証で見つかった問題には、責任者と期限を定めて対応し、必要に応じて規程、組織、システム、教育内容を見直します。
ガバナンス強化は現状把握から改善の定着まで5段階で進める
ガバナンスを強化するときは、最初から大規模な組織変更やシステム導入を行うのではなく、自社の現状を把握したうえで優先順位を決めます。
1.重要な意思決定とリスクを洗い出す
自社にとって特に重要な意思決定や、問題が起きた場合の影響が大きい業務を洗い出します。
対象例として、経営投資、契約、資金管理、情報管理、採用、人事評価、人事異動、労務管理、子会社管理などがあります。
すべてを同じ深さで点検するのではなく、影響度や発生可能性を踏まえて対象を絞ることがポイントです。
2.責任者・承認者・監督者を整理する
重要な業務について、誰が実行し、誰が承認し、誰が監督するのかを可視化します。
決裁規程上の責任者と、実際に判断している人物が一致しているかも確認します。「長年の慣例で担当者が決めている」「最終責任者が分からない」といった状態は、優先的に見直す必要があります。
3.ルールと実際の運用との差を確認する
規程、業務マニュアル、申請書、システム上の承認経路などを確認し、現場へのヒアリングも行います。
規程では二段階承認になっていても、実際には承認が形式化している場合があります。反対に、規程に定めのない確認作業が増え、担当者の負担になっているケースもあります。
文書上のルールだけでなく、実際の運用を確認することが重要です。
4.優先度を決めて仕組みと運用を改善する
見つかった課題について、問題が起きた場合の影響、発生可能性、改善の緊急度を評価します。
責任権限の変更、承認フローの見直し、情報の一元化、アクセス権限の設定、研修の実施など、課題に合った方法を選びます。
システム導入は選択肢の一つですが、先に業務ルールや責任者を整理しなければ、現在の問題をそのままシステムへ移すことになりかねません。
5.定期的に検証し、環境変化に応じて見直す
組織再編、新規事業、法改正、人員の入れ替わり、システム変更などがあれば、必要な統制も変わります。
監査結果、インシデント、内部通報、承認の滞留件数、例外処理の発生状況などを確認し、仕組みが機能しているかを定期的に評価します。
改善策には責任者と期限を設定し、実施状況まで追跡しましょう。
ガバナンスの実効性を確認するチェックリスト
自社のガバナンスを確認する際は、次の項目を利用できます。
- 重要な意思決定事項が定義されている
- 決定者、実行者、承認者、監督者が明確になっている
- 利益相反や例外処理のルールが定められている
- 判断に使用した情報と意思決定の過程を記録できる
- 必要な情報が適切な担当者へ共有されている
- 機密情報や個人情報へのアクセス範囲が適切である
- 問題を相談・報告できる経路が設けられている
- 規程と実際の運用に差がないか確認している
- 監査や検証で見つかった問題の是正状況を追跡している
- 事業、組織、法制度の変化に応じて仕組みを見直している
すべてにチェックが付くことだけを目標にするのではなく、項目ごとに「誰が」「いつ」「どのように確認したか」を明確にすることが大切です。
ガバナンスを形骸化させないために避けたい失敗
規程を作ることが目的になっている
規程が現場で理解されていなかったり、実態と合っていなかったりすれば、ガバナンスは機能しません。
規程の制定後も、周知、教育、運用状況の確認、改訂を続ける必要があります。
承認者を増やしすぎている
承認段階を増やせば、不正や誤りを必ず防げるわけではありません。確認項目が曖昧なまま承認者だけを増やすと、責任の所在が不明確になり、形式的な承認が増える可能性があります。
各承認者が何を確認し、どのような基準で判断するのかを定めましょう。
権限が特定の人に集中している
業務知識や意思決定が特定の担当者に集中すると、その人が不在の場合に業務が止まるだけでなく、誤りを発見しにくくなります。
職務分掌や相互確認を取り入れ、重要な判断を一人だけで完結させない仕組みを検討します。
情報が部門やファイルごとに分散している
判断に必要な情報が複数の表計算ファイルやシステムに分散していると、どれが最新情報なのか分からなくなる場合があります。
情報の管理場所、更新担当者、更新時期、正しいデータを判断する基準を決める必要があります。
システムを導入すれば解決すると考えている
システムは、申請・承認や情報管理を支える手段です。誰が承認するのか、どの情報を管理するのか、例外時にどう対応するのかは、企業側で決めなければなりません。
業務とルールを整理したうえで、それを実現できるシステムを選定することが重要です。
人事ガバナンスでは人事判断と人事情報の管理ルールが重要になる
人事領域にもガバナンスの考え方が必要です。採用、配置、人事異動、評価、処遇などは、従業員の働き方や企業の人材戦略に大きな影響を与えるためです。
人事ガバナンスでは、例えば次の項目を明確にします。
- 採用、異動、評価、処遇の判断基準
- 人事上の決定権限と承認経路
- 例外的な判断を認める条件
- 判断の根拠と承認過程の記録方法
- 従業員情報を入力・更新する担当者
- 人事情報を閲覧できる役職・部門
- 個人情報を利用する目的と範囲
- 誤りが見つかった場合の訂正手順
評価制度や人事規程が整っていても、部署ごとに異なる基準で運用されていたり、例外的な処遇の理由が記録されていなかったりすれば、実効性のあるガバナンスとはいえません。
また、人事情報を活用するには、必要なデータが正確かつ適切な状態で管理されていることが前提です。情報の一元化、更新ルール、閲覧権限、申請・承認の流れをあわせて整える必要があります。
人事情報管理を仕組み化する方法
クラウド型人事管理システム「サイレコ」では、従業員情報の一元管理、管理項目のカスタマイズ、組織図・組織構成の履歴管理、申請承認管理・ワークフローなどの機能が提供されています。
これらは、人事情報の管理場所や申請・承認の流れを整備する手段として活用できます。ただし、システムを導入するだけで企業のガバナンスや法令対応が完了するわけではありません。自社で責任者、承認基準、アクセス権限、情報の利用目的などを定め、適切に運用する必要があります。
サイレコのセキュリティについて、公式サイトではSSLによる暗号化通信、パスワードポリシー設定、ISMSクラウドセキュリティ認証(ISO/IEC 27017)が標準仕様として案内されています。接続元IPアドレス制限と二要素認証はオプションです。
参考:サイレコの機能紹介
参考:サイレコの料金プラン・セキュリティ仕様
ガバナンスについてよくある質問
ガバナンスとコンプライアンスは同じですか?
同じではありません。
コンプライアンスは、法令、社内規程、社会規範などを守ることです。ガバナンスは、コンプライアンスを含め、企業全体を適切に統治・監督するための仕組みを指します。
ガバナンス強化は非上場企業にも必要ですか?
東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードは上場会社を対象としていますが、非上場企業でも、責任権限、承認、情報管理、監督の仕組みを整えることには実務上の意義があります。
ただし、会社法などに基づく具体的な義務は、会社の規模や機関設計などによって異なります。自社への適用は最新の法令や公的情報を確認してください。
ガバナンスを強化するには何から始めればよいですか?
最初に、自社にとって重要な意思決定とリスクを洗い出しましょう。
そのうえで、それぞれについて「誰が実行するか」「誰が承認するか」「誰が監督するか」を可視化します。規程上の体制だけでなく、実際の運用と一致しているかを確認することが重要です。
ガバナンスと内部統制の違いは何ですか?
ガバナンスは企業全体を統治・監督する枠組みで、内部統制は適正な業務を行うために社内へ整備する具体的な仕組みです。
内部統制は、日々の業務を通じてガバナンスを支える役割を持ちます。
まとめ:ガバナンスは仕組みを作るだけでなく継続的に機能させることが重要
ガバナンスとは、組織が健全かつ持続的に運営されるよう、経営や意思決定を統治・監督する仕組みです。
コンプライアンス、内部統制、リスクマネジメントはガバナンスと密接に関係しますが、目的や役割は異なります。違いを理解したうえで、方針、責任権限、承認プロセス、情報共有、監査・是正を連動させることが重要です。
ガバナンスを強化する際は、まず重要な意思決定とリスクを洗い出し、誰が決定・承認・監督しているかを確認しましょう。規程を作るだけで終わらせず、実際の運用を定期的に検証し、事業や組織の変化に応じて見直す必要があります。
人事領域では、人事判断の基準や承認権限に加えて、従業員・組織情報の更新、閲覧、利用方法を明確にすることが大切です。人事情報の一元管理や申請承認の仕組みを見直す場合は、サイレコの機能紹介もご確認ください。