人事システムのAPI連携では、公開された接続仕様を使い、従業員情報などを他システムと受け渡す処理を自動化できます。ただし、「API対応」でも、必要な項目を希望する方向・頻度で連携できるとは限りません。導入前には、対応データ、開発の要否、利用条件、費用、運用体制を確認する必要があります。
本記事では、既存システムと連携できるかを判断するポイントと、提供会社への確認手順を解説します。
人事システムのAPI連携は、情報の受け渡しを自動化する仕組み
APIは「Application Programming Interface」の略で、外部のプログラムからソフトウェアの機能やデータを利用するための窓口です。人事システムのAPI連携では、この窓口を通じて従業員情報などを取得したり、別のシステムへ登録・更新したりします。
必要な処理を組み合わせることで、担当者が同じ情報を複数のシステムへ入力する作業を減らせます。ただし、APIが提供されているだけで、自動連携の設定や運用まで完了するわけではありません。
従業員・組織・勤怠など、必要なデータごとに連携を考える
人事領域で検討できる連携には、次のようなものがあります。以下は業務上の検討例であり、すべての製品が対応していることを示すものではありません。
| 連携する業務 | データを渡す方向の例 | 対象データの例 |
|---|---|---|
| 入社時の従業員登録 | 人事管理→勤怠管理 | 社員番号、氏名、入社日 |
| 異動情報の反映 | 人事管理→関連システム | 所属部署、役職、適用日 |
| 給与計算用データの受け渡し | 勤怠管理→給与計算 | 出勤日数、労働時間、残業時間 |
実際に、勤怠管理サービスの公式情報では、従業員情報や勤怠情報を連携対象として案内している例があります。ただし、受け渡せる項目は接続先によって確認が必要です。タッチオンタイム「外部サービス連携」
「人事と給与をつなぐ」と大きく考えるよりも、「入社時の氏名と社員番号の再入力をなくす」など、減らしたい作業から対象を絞ると、必要な連携機能を判断しやすくなります。
API対応でも、即時反映・双方向更新・全項目の連携は保証されない
API連携を検討するときは、次の違いを押さえておきましょう。
- 取得と更新: 情報を読み出せても、外部から書き換えられるとは限りません。
- 片方向と双方向: 人事システムから給与システムへ送れても、逆方向に戻せるとは限りません。
- 定期実行と即時反映: APIを使う場合でも、処理が毎日決まった時間に実行される設計なら、その時間まで反映を待ちます。
変更をきっかけに別の処理を動かしたい場合には、イベントの発生を通知する「Webhook」への対応も確認します。ただし、通知を受けた後にデータを取得・登録する仕組みも必要です。SmartHR for developers
また、CSV連携でも、ファイルの出力・取込を定期処理で自動化できる場合があります。APIかCSVかだけで決めず、必要な反映期限と、残る手作業を比較することが大切です。
API連携の導入方法は、標準機能・個別開発・連携ツールで異なる
API連携を実現する方法は、大きく三つに整理できます。まずは希望する接続に対応した連携機能が用意されているかを確認し、足りない部分について個別開発や連携ツールを検討します。
| 導入方法 | 仕組み | 設定・開発の確認点 | 費用・保守の確認点 |
|---|---|---|---|
| 標準の連携機能 | 提供会社が用意した接続機能を利用する | 接続先、対応項目、実行タイミングが業務に合うか | 追加契約・料金の有無、問い合わせ先 |
| 個別開発 | 公開APIを使って連携処理を作る | データ変換、実行制御、失敗時の処理を誰が作るか | 開発費、監視・保守費、仕様変更時の改修担当 |
| 連携ツールの利用 | 中継サービスでデータの取得・変換・送信を設定する | 対応コネクターと操作範囲、追加開発の要否 | ツール利用料、設定支援費、接続全体の保守担当 |
「iPaaS」は、複数のクラウドサービスなどをつなぐための連携基盤です。APIと組み合わせて利用できるため、APIとiPaaSは必ずしも別々の選択肢ではありません。
製品によっては、API以外にも外部アダプタやバッチによる連携を案内しています。利用できる方法と役割を、公式の連携情報で確認しましょう。SmartHR「外部サービス連携」
標準機能でも有料の場合があり、連携ツールを使っても独自のデータ変換が必要な場合があります。導入方法の名称だけで、費用や作業量を判断しないことが重要です。
API連携は対応範囲・利用条件・運用体制で判断する
導入判断では、「必ず満たす条件」と「実現できれば望ましい条件」を分けます。特に、業務に必要な項目や反映期限を満たせない場合は、接続自体ができても、手作業が残る可能性があります。
必要な項目・操作・方向・反映タイミングがそろうか
最初に確認するのは、必要なデータを取得でき、連携先が受け取れるかです。標準項目だけでなく、独自に追加した管理項目も対象になるか確認しましょう。
例えば、所属部署を連携する場合は、部署名だけを送るのか、部署コードを使うのかによって準備が変わります。送信元の値と、連携先で受け付ける値の対応付けが必要になることもあります。
人事データでは、情報を入力した日と、実際に適用する日が異なる点にも注意が必要です。翌月の異動を事前登録する運用なら、登録直後に新部署へ切り替わらず、発令日に合わせて反映できるかを確認します。
あわせて、新規登録・更新・退職時の処理を分けて確認してください。「従業員情報を連携可能」という説明だけでは、退職者を在籍対象から外せるか、履歴を残せるかまでは判断できません。
APIの利用条件・制限と、追加費用を確認する
APIの利用には、対象プランや利用申請などの条件が設けられている場合があります。また、一定時間内の呼出回数などに制限があると、想定した件数を期限内に処理できるかの確認が必要です。
実際に、freee人事労務のAPIリファレンスでは、契約プランによる利用可能な機能の違いやアクセス制御について案内しています。条件は製品ごとに異なるため、利用予定のサービスの公式仕様を確認しましょう。freee「人事労務APIリファレンス」
費用は、次の項目に分けて見積もりを依頼すると比較しやすくなります。
| 費用区分 | 確認する項目 |
|---|---|
| 初期費用 | 要件整理、連携設定、個別開発、データ変換、検証 |
| 継続費用 | API関連オプション、連携ツール、監視・保守 |
| 変更時の費用 | 項目追加、接続先追加、API仕様変更に伴う改修 |
APIそのものの利用料が無料でも、連携処理の開発や保守に費用がかかることがあります。初期費用と継続費用を分け、どこまでが見積もりに含まれるかを確認してください。
認証・アクセス権限・人事情報の取扱範囲を確認する
人事システムには個人データが含まれるため、接続できることに加え、適切な権限で利用できることが必要です。
個人情報保護法第23条は、個人情報取扱事業者に対し、取り扱う個人データの安全管理措置を求めています。個人情報保護委員会の通則編では、情報システムを使って個人データを扱う場合の技術的安全管理措置として、アクセス制御、識別・認証、不正アクセス等の防止、漏えい等の防止を示しています。個人情報保護委員会「通則編」
API連携の検討時には、具体的に次を確認しましょう。
- APIで取得・更新できる情報を、必要な範囲に限定できるか
- 認証情報を誰が保管し、更新・失効を管理するか
- 管理画面の閲覧・編集権限が、APIにも適用されるか
- 連携の実行結果や操作記録を確認できるか
これらは製品仕様を確かめるための実務上の確認項目です。特定の設定だけで安全管理が完了するわけではなく、担当者や取扱ルールも含めて運用を整えます。
連携失敗・仕様変更に対応する担当と保守範囲を決める
自動化した後も、データ不備や通信障害などによって処理が完了しない場面を想定しておきましょう。
重要なのは、失敗を検知し、どの情報が未反映かを確認できることです。「送信を実行した」という記録だけでなく、連携先への登録・更新が成功したかまで確認する運用を決めます。
再実行時には、すでに処理済みの従業員を重複登録しないかも検証します。連携先への登録は成功したものの、結果の受信に失敗したケースなども、提供会社に確認しておくとよいでしょう。
また、障害時に人事部門、情報システム部門、提供会社、開発会社の誰が調査するのかを明確にします。APIの変更・廃止に関する通知先と、必要な改修を判断する担当も、稼働前に決めておきます。
連携要件をまとめ、提供会社への確認と検証を進める
確認を効率よく進めるには、最初からすべての人事業務を対象にせず、一つの業務について要件を具体化する方法が有効です。
1.二重入力を減らしたい業務と対象データを一つ選ぶ
「入社情報を勤怠システムへ再入力している」など、現在の作業を起点にします。どの入力・加工・取込作業を減らしたいかを明確にし、自動化後も人による承認や確認が必要かを整理してください。
2.更新元・送信先・必要項目・反映期限を記入する
どのシステムの情報を正しい元データとして扱うかを決めます。社員IDの対応や、部署コードなどの表記の違いも整理しましょう。
以下の確認表に自社の条件を記入し、提供会社からの回答、根拠資料、確認日、未解決事項を追記すると、社内で判断を共有しやすくなります。
| 確認項目 | 自社で整理する内容・提供会社への質問 |
|---|---|
| 接続対象 | 送信元・送信先の製品名、プラン、バージョン |
| データ・操作 | 必要な項目、取得・登録・更新の範囲、退職時の扱い |
| 正本・照合 | 更新元とするシステム、社員IDの対応方法 |
| 時点・頻度 | 発令日、反映期限、定期実行か変更を起点とするか |
| 処理の制限 | 呼出回数、処理件数、差分・履歴の対応範囲 |
| 認証・権限 | 認証方式、アクセス範囲、認証情報の更新・失効 |
| 費用・条件 | 利用申請、追加契約、初期費用、継続費用 |
| 検証・運用 | 検証環境、失敗通知、再実行、保守担当 |
※上表は導入検討用の確認表です。各製品の対応を示すものではありません。
正本や社員IDの整理については、「人事マスタをデータ連携する方法|API・CSVの違いと失敗を防ぐ進め方」も参考にしてください。
3.両システムの提供会社に仕様と費用を確認する
確認は送信元と送信先の両方に行います。片方からデータを取得できても、もう片方で必要な登録・更新ができなければ、業務としての連携は成立しません。
例えば、「API連携できますか」ではなく、「人事システムで登録した社員番号・氏名・入社日を、勤怠システムへ入社日前日までに登録できますか」と質問します。希望する処理と期限を伝えることで、追加開発の要否も確認しやすくなります。
4.テストデータで正常時・異常時を検証する
検証環境の利用条件を確認し、実際の業務に沿ったテストを行います。従業員情報を扱うテストでは、利用可能な範囲で架空のテストデータを用意し、不必要な個人データの持ち出しを避けます。
| 検証場面 | 確認する結果 |
|---|---|
| 入社情報の登録 | 必要な項目が、正しい従業員として登録される |
| 未来日付の異動 | 発令前に切り替わらず、必要な日から反映される |
| 退職情報の更新 | 定めたルールに沿って在籍状態などが変更される |
| 必須項目の欠落 | 不備が検知され、対象データを特定できる |
| 通信失敗・再実行 | 未処理を確認でき、重複登録を避けて復旧できる |
最後に、処理件数や連携先のデータを照合し、残る手作業を確認します。その結果を踏まえて運用手順と担当者を確定してから、本番運用へ進めましょう。
人事システムのAPI連携でよくある質問
開発担当者がいなくてもAPI連携できますか?
標準の連携機能や連携ツールで対応できる場合があります。ただし、希望する項目や処理が用意されていなければ、追加開発が必要になることもあります。
開発の有無にかかわらず、初期設定、データの対応付け、失敗時の確認を誰が担当するかは決めておきましょう。自社で対応できる範囲と、提供会社に依頼できる範囲を分けて確認することが大切です。
利用中の人事システムがAPI非対応なら、入れ替えが必要ですか?
直ちに入れ替える必要はありません。CSVなどの入出力で、必要な反映期限や作業量に対応できるかを先に確認します。
月次の一括処理で足りる業務と、入社日までの確実な反映が必要な業務では、求める条件が異なります。API非対応という理由だけで入れ替えを決めず、現在の運用負荷と、移行・保守にかかる費用を比較してください。
サイレコとの連携は、対象システムと必要な項目を整理して確認する
HRオートメーションシステム「サイレコ」は、組織人事の情報を蓄積し、経営情報としての活用を支援するクラウド型人事管理システムです。従業員情報の管理や管理項目のカスタマイズ、CSVファイルによる情報の一括登録が案内されています。サイレコ公式機能紹介
公式サイトには外部サービスの連携先が掲載され、利用規約にも第三者サービスとのAPI連携に関する定めがあります。ただし、連携先の掲載だけでは、接続方法、対象項目、更新方向、利用条件までは判断できません。サイレコ公式サイト、サイレコ利用規約
検討時には、本記事の確認表を使い、必要な連携が可能か、追加契約や開発・保守が必要かを個別に確認しましょう。
まとめ:API対応の有無から、業務要件を満たすかの確認へ進む
人事システムのAPI連携を選ぶ際は、対応の有無に加えて、必要な項目・操作・方向・反映タイミングがそろうかを確認することが重要です。費用と稼働後の運用まで整理することで、自社に合う連携方法を判断しやすくなります。
まずは自動化したい業務を一つ選び、連携要件を確認表にまとめてみましょう。
サイレコとの連携を検討している方は、ご利用中のシステム名、連携したい項目、希望する更新頻度を整理してお問い合わせください。対応範囲・利用条件・費用をご確認いただけます。