人事システムのバックアップは、対象データ・取得頻度・保管期間・保管先を決め、必要な時点まで復元できることを確認して運用します。クラウド型でも、事業者の障害対策と、利用者の誤削除・一括更新ミスに対する復元対応は分けて確認が必要です。
本記事では、人事・労務担当者が情報システム担当者や提供事業者と確認すべき項目を整理し、バックアップの運用手順と復元テストのポイントを紹介します。
人事システムのバックアップは「必要な状態に戻せるか」で考える
バックアップの目的は、保存したデータを使って必要な業務を再開できるようにすることです。ファイルが存在するだけでなく、必要な情報が含まれ、利用中のシステムで復元できるかを確認しましょう。
IPAも、重要情報の定期的なバックアップに加え、安全な保管と、データを戻せることの定期確認を推奨しています。出典:IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版」
誤削除・一括更新ミス・障害に備える
人事システムでは、たとえば次のような状況を想定しておくと、必要な復元範囲を整理できます。
- 従業員情報を誤って削除した
- CSVの一括取込で、所属や雇用区分を誤った内容に更新した
- 評価データの更新後に、変更前の内容が必要になった
- システム障害によって、登録データを利用できなくなった
これらは運用を検討するための例です。実際にどの場面へ対応できるかは、製品の機能や契約によって異なります。
「削除した従業員だけを戻したい」のか、「システム全体を前日の状態に戻したい」のかでも、必要な機能と業務への影響が変わります。まずは、自社が備えたい場面を具体化してください。
CSV出力・同期・冗長化だけで復元できるとは限らない
従業員一覧をCSVで保存していても、添付ファイルや評価履歴、権限設定まで含まれているとは限りません。また、出力できるデータを、そのまま再取込できるかも確認が必要です。
| 方法 | 確認すべき点 |
|---|---|
| CSV出力 | 出力対象に必要な項目・履歴が含まれるか。再取込で戻せる範囲はどこまでか |
| データ同期 | 誤削除や誤更新も同期されるか。過去の状態を別途保持しているか |
| 冗長化 | 機器障害への備えに加え、変更前のデータへ戻す仕組みがあるか |
| バックアップ | どの時点の、どの範囲を、どの手順で復元できるか |
製品の説明を読む際は、「データを複製する仕組み」と「過去の状態に戻す仕組み」をそれぞれ確認しましょう。
クラウド型とオンプレミス型では、担当範囲を確認する
バックアップを誰が取得し、復元を誰が実行するかは、システムの提供形態や運用契約によって変わります。
IPAのクラウドサービス安全利用の手引きでも、サービスの利用条件や責任範囲を確認する考え方が示されています。クラウドを使う場合も、自社が担当する管理を明確にしておくことが大切です。出典:IPA「中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」
以下を役割分担の確認に使ってください。
| 確認する作業 | クラウド型での確認先・内容 | オンプレミス型での確認先・内容 |
|---|---|---|
| バックアップの取得 | 提供事業者の対象範囲・取得条件 | 情報システム担当者や運用委託先の設定 |
| データの保管 | 事業者の保管条件と、自社出力分の管理者 | 保存媒体・保管場所・管理者 |
| 取得結果の確認 | 事業者の監視範囲と利用者への通知 | 成否を確認する担当者・通知先 |
| 復元の実行 | 依頼方法、対応範囲、費用・時間 | 実行担当者、手順、必要な環境 |
| 復元後の業務確認 | 人事部門と事業者の分担 | 人事部門と情報システム担当者の分担 |
クラウド型は障害復旧と個別データの復元を分けて確認する
「バックアップを実施している」という説明だけでは、利用者が誤って消したデータまで戻せるか判断できません。
提供事業者には、次のように具体的に確認するとよいでしょう。
- 利用者による誤削除・誤更新は、復元対応の対象ですか
- 特定の従業員や項目だけを復元できますか
- どの時点まで遡れますか
- 依頼期限や申請できる担当者の条件はありますか
- 復元にかかる時間と追加費用はどのように決まりますか
回答は確認日とともに残し、契約書や仕様書の該当箇所を記録します。自社の希望条件と、事業者が対応できる条件を分けて整理してください。
オンプレミス型は取得・保管・復元の担当者を決める
自社で設備を管理する場合は、バックアップの設定だけでなく、失敗の確認や保存媒体の管理も担当者を決めます。運用を委託している場合は、委託対象に復元作業まで含まれるか確認しましょう。
役割分担の一例として、人事部門は「必要なデータと業務再開の条件」、情報システム担当者は「取得・保管・復元の方法」を整理します。そのうえで、復元後の確認を共同で行う流れにすると、確認漏れを減らせます。
人事システムのバックアップ運用を決める5つの手順
ここからは、人事部門で運用を整理するための手順を紹介します。具体的な取得操作や設定は、利用製品の公式マニュアルと契約条件に従ってください。
手順1:従業員情報・履歴・添付ファイルなどを棚卸しする
最初に、業務再開に必要な情報を書き出します。従業員の基本情報だけでなく、自社が実際に管理している履歴や書類も対象として確認しましょう。
| データの例 | 棚卸しで確認すること |
|---|---|
| 従業員の基本情報 | 社員番号、氏名、所属など、業務で必要な項目 |
| 組織・異動履歴 | 過去の所属、適用日、組織コードとの対応 |
| 評価データ | 評価結果、コメント、確定前後の状態 |
| 添付ファイル | 契約書や申請書類などの保存先と対象範囲 |
| 設定情報 | 管理項目、権限、承認経路などの復旧方法 |
| 連携データ | どのシステムを正しい情報の基準にするか |
上記は確認対象の例であり、すべての製品に含まれる機能を示すものではありません。
各データについて「保存先」「管理責任者」「バックアップ対象か」「対象外の場合の復旧方法」を記録すると、抜けを見つけやすくなります。
手順2:戻したい時点と業務再開までの目標時間を決める
バックアップの頻度を決める前に、「どこまでの更新を失っても対応できるか」「どれくらいで業務を再開する必要があるか」を整理します。
この判断に使うのが、RPOとRTOです。
| 指標 | 意味 | 人事業務で考える問い |
|---|---|---|
| RPO:目標復旧時点 | どの時点までのデータを復旧する必要があるかという目標 | 前日の状態まで戻れば対応できるか。直近の更新も必要か |
| RTO:目標復旧時間 | 停止から復旧までに許容できる時間の目標 | いつまでに業務を再開しなければ、締め処理などに影響するか |
これらは業務ごとの影響を踏まえて定義する指標です。出典:AWS「ダウンタイムやデータ消失に関する復旧目標を定義する」
たとえば給与連携の締切直前と、通常の情報更新時では、停止の影響が異なる可能性があります。人事部門で必要条件を整理し、実現できる方法や費用を情報システム担当者・事業者と確認してください。
なお、目標時間は復元の保証時間ではありません。契約上の対応条件とは区別して扱います。
手順3:取得頻度・世代数・保管期間を決める
取得頻度はデータの更新頻度とRPO、保管期間は誤りに気付くまでの期間などから検討します。
世代管理とは、異なる時点のバックアップを複数残すことです。最新のデータだけを上書き保存する方法では、誤更新が起きる前の状態を残せない場合があります。IPAも、対象・頻度の決定や複数世代の保持、復元手順の整備を取り上げています。出典:IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版」
運用を決める際は、次の点を確認しましょう。
- 通常の更新は、どのくらいの頻度で行われるか
- 誤りを発見するまで、どのくらい時間がかかるか
- 一括更新やデータ加工の前に、復元可能な状態を確保できるか
- 保存容量や費用、復元の手間は許容できるか
復旧用バックアップの保管期間と、書類ごとの法定保存期間は別に整理します。バックアップを残すだけで、必要な書類を適切な形式で保存したことになるとは限りません。
手順4:保管先とアクセス権を決める
保管方法を考える際の参考に、3-2-1ルールがあります。データを元データを含めて3つ保持し、2種類の媒体を使い、1つを離れた場所に保管する考え方です。IPAもバックアップ検討の参考として紹介しています。出典:IPA「情報セキュリティ10大脅威2023・組織編」
ただし、クラウドサービスを利用する人事担当者が、自己判断で複数の保存先へ個人情報をコピーする運用は避けましょう。必要な保護を保てる保存先を、情報システム担当者と選定します。
具体的には、閲覧・復元できる人、暗号化の方法、復元に必要な鍵の管理者、保存期限後の削除方法を決めます。日常業務用の共有フォルダを使う場合も、必要以上の従業員が閲覧できないか確認してください。
個人情報保護法第23条は、個人情報取扱事業者に対し、取り扱う個人データについて必要かつ適切な安全管理措置を求めています。具体的な措置は、事業の規模・性質やデータの取扱状況などのリスクに応じて判断するもので、一律のバックアップ頻度を定めた規定ではありません。出典:個人情報保護委員会「通則編」3-4-2
個別の取扱いに迷う場合は、同委員会の相談窓口や弁護士などに確認してください。
手順5:取得結果の確認と復元依頼のルールを決める
自動取得を設定した後も、「誰が成否を確認するか」を決めておきます。失敗通知の宛先が退職者のままになっていないか、担当者不在時に代行できるかも確認しましょう。
次の表をコピーし、確認結果を記入してください。
| 確認項目 | 確認する内容 | 自社の確認結果 |
|---|---|---|
| 対象 | 基本情報・履歴・添付・設定の対象と対象外 | ____ |
| 取得 | 頻度、実行時点、一括更新前の取得可否 | ____ |
| 保管 | 世代数、期間、保管先、本番環境との分離 | ____ |
| 復元範囲 | 全体・従業員・項目などの復元単位 | ____ |
| 対応条件 | 誤削除への対応、依頼期限、費用、所要時間 | ____ |
| 自社保存 | 出力形式、再取込の可否、保管責任者 | ____ |
| 日常運用 | 成否の確認者、失敗時の連絡先、代行者 | ____ |
| 契約終了時 | データ取得の期限、バックアップを含む削除の扱い | ____ |
確認した根拠文書と日付も残し、未確認の項目には担当者と対応期限を付けます。
復元テストではデータの整合性と所要時間まで確認する
復元テストでは、「処理が完了したか」に加えて、「必要な情報が戻り、業務で使えるか」を確認します。
人事部門では、次の流れを確認手順として活用してください。
- 対象と合否基準を決める
対象の業務・データ・復元時点と、確認する項目を決めます。 - 検証環境と公式手順を確認する
本番データへの影響、テスト中の外部連携や通知の扱いを確認します。 - 復元を実施する、または事業者へ依頼する
実施日時、使用したバックアップ、作業内容を記録します。 - データと所要時間を確認する
件数だけでなく、内容や利用権限まで照合します。 - 結果と改善事項を記録する
不足したデータ、想定より時間がかかった工程、次回の確認日を残します。
検証環境で件数・履歴・添付・権限を照合する
人事部門が確認する項目の例は、以下のとおりです。
- 対象従業員の件数と社員番号が一致しているか
- 所属・適用日・異動履歴が正しく戻っているか
- 必要な評価内容や添付ファイルを確認できるか
- 閲覧・編集権限が意図した状態になっているか
- 想定した時間内に業務確認まで終えられるか
検証環境にも個人情報が含まれる場合は、アクセスを制限し、テスト後のデータの扱いを決めておきます。
クラウド型で利用者自身が復元テストを実施できない場合は、事業者に検証状況や結果を確認できる範囲を尋ね、自社への復元対応条件を記録しましょう。
復元後の差分と連携先への影響を確認する
過去の状態に戻した後は、バックアップ取得後に行った正しい更新をどう扱うか判断する必要があります。
たとえば、一部の誤更新を直すために全体を戻す場合、同じ期間に行った別の変更も影響を受けないか確認します。再入力が必要な情報を洗い出し、変更記録や元の申請内容と照合してください。
給与など他のシステムと連携している場合は、連携先との情報の不一致や、再連携による上書き・重複が起きないかも確認します。自動連携の停止・再開は、担当者と事業者の手順に従い、業務再開を判断する責任者を決めておきましょう。
人事システムのバックアップに関するよくある質問
クラウド型でも自社でバックアップを取る必要がありますか?
契約上の復元範囲と、自社が必要とする条件によります。事業者のバックアップ対象や誤操作への対応を確認し、不足があれば自社での出力・保管などを検討します。
その際は、出力したファイルで何を戻せるか、安全に保管できるかまで確認してください。
バックアップは毎日取れば十分ですか?
毎日の取得で十分かは、一律には判断できません。直近の更新が業務に不可欠なら、1日分のデータ損失を許容できない場合もあります。
取得頻度だけでなく、誤りに気付いた時点で必要な世代が残っているかも確認しましょう。
誤削除に気付いたら、すぐにバックアップを戻してよいですか?
まず担当者や提供事業者に連絡し、復元範囲と手順を確認してください。自己判断で全体を戻すと、正しい更新や連携先にも影響する可能性があります。
発見日時、行った操作、対象データを記録して伝えると、状況を整理しやすくなります。
まとめ:復元条件を確認し、担当者と次の確認日を決める
人事システムのバックアップでは、取得・保管・復元を一つの運用として整えることが大切です。クラウド型でも、事業者のバックアップが自社の必要な復元範囲を満たすか確認しましょう。
まずは本記事の確認表を使い、対象データ、戻したい時点、担当者を整理してください。未確認項目に確認先と期限を付け、復元テストや事業者への照会につなげます。
サイレコをご検討中の方は、公式のセキュリティ情報をご確認ください。バックアップの取得頻度・保管期間・個別復元などの対応条件は、提供元へ個別に確認しましょう。