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最低賃金とは?種類・対象となる賃金・計算方法をわかりやすく解説

最低賃金とは、労働者の賃金の最低限度を保障するため、最低賃金法に基づいて定められている制度です。正社員だけでなく、パート・アルバイト・契約社員などにも原則として適用されるため、人事・労務担当者は雇用形態を問わず賃金を確認しなければなりません。

しかし、最低賃金との比較では、単純に月給の総支給額を労働時間で割ればよいとは限りません。賞与、残業代、通勤手当、家族手当など、計算から除外する賃金があるためです。また、勤務先の地域や産業によって適用額が異なるほか、派遣労働者には派遣先の最低賃金が適用されます。

最低賃金を下回る契約は、労使が合意していてもその部分が無効となり、企業には差額の支払いが必要です。この記事では、最低賃金の基本的な仕組みから計算方法、違反時の罰則、改定時に企業が行うべき実務まで、人事・労務担当者の視点で解説します。

最低賃金とは

最低賃金とは、最低賃金法に基づき、使用者が労働者に支払わなければならない賃金の最低限度を定める制度です。企業は、国が定める最低賃金額以上の賃金を労働者へ支払う必要があります。正社員だけでなく、契約社員、パート、アルバイトなどにも原則として適用されるため、人事・労務担当者は雇用形態を問わず賃金額を確認しなければなりません。

最低賃金制度の意味と目的

最低賃金制度は、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善や労働者の生活の安定を図るための制度です。賃金が著しく低い水準に設定されることを防ぎ、労働者が安定した生活を維持できる環境を整える役割があります。

また、最低賃金法には、労働力の質の向上や事業者間の公正な競争を確保し、国民経済の健全な発展に寄与するという目的もあります。最低賃金がなければ、賃金を過度に引き下げる企業が価格競争で有利になる可能性があります。そのため、最低賃金制度は単に労働者を保護するだけでなく、適正な賃金を支払う企業が不利にならない競争環境を整える制度でもあります。

最低賃金未満の労働契約は無効になる

労働者と使用者の双方が合意していても、最低賃金を下回る賃金を定めることはできません。最低賃金に達しない労働契約は、その部分が法律上無効となり、適用される最低賃金額と同額の賃金を定めたものとみなされます。

たとえば、最低賃金が時給1,100円の地域で、労働者本人の了承を得て時給1,000円と定めても、その契約の賃金部分は認められません。企業は時給1,100円を基準に賃金を計算し、すでに不足額が生じている場合は差額を支払う必要があります。「本人が了承していた」「雇用契約書に記載していた」といった事情は、最低賃金を下回る賃金を支払う理由にはならないため注意が必要です。

最低賃金には2つの種類がある

最低賃金には、都道府県ごとに定められる「地域別最低賃金」と、特定の産業を対象とする「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。企業は、事業場の所在地や業種、従業員の業務内容を確認し、適用される最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。

地域別最低賃金とは

地域別最低賃金とは、各都道府県内の事業場で働く労働者に適用される最低賃金です。原則として、産業、職種、企業規模を問わず、正社員、契約社員、パート、アルバイトなど、雇用形態や呼称にかかわらず適用されます。

適用額は企業の本社所在地ではなく、労働者が実際に勤務する事業場の所在地を基準に確認します。複数の都道府県に事業場がある企業では、拠点ごとに異なる最低賃金が適用される可能性があるため、勤務地情報を正確に管理することが重要です。

地域別最低賃金は毎年度審議され、改定されます。2025年度の全国加重平均額は時給1,121円ですが、全国一律に1,121円が適用されるわけではありません。実際の最低賃金額と発効日は都道府県ごとに異なり、2025年度は2025年10月1日から2026年3月31日までの間に順次発効されました。人事・労務担当者は、改定額だけでなく、自社の事業場における発効日も確認する必要があります。2026年度の金額については、記事公開・更新時点の厚生労働省や都道府県労働局の情報を確認してください。

特定(産業別)最低賃金とは

特定(産業別)最低賃金とは、地域別最低賃金より高い水準の最低賃金を定める必要があると認められた特定の産業に設定される最低賃金です。設定されている産業や金額、対象となる労働者の範囲は、都道府県や産業によって異なります。

特定最低賃金は、業種名が一致するだけで、そこで働くすべての従業員に適用されるとは限りません。特定の産業における基幹的な労働者を対象としており、年齢、技能習得期間、担当業務などによって適用されない場合があります。そのため、自社の業種だけで判断せず、各特定最低賃金で定められた適用範囲を確認することが重要です。

地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される場合は、金額の高い方が優先されます。企業は両方の金額を確認し、高い方の最低賃金額以上を支払わなければなりません。

最低賃金が適用される労働者

地域別最低賃金は、原則として事業場で働くすべての労働者に適用されます。正社員だけを確認するのではなく、パートやアルバイト、試用期間中の従業員なども含め、雇用している労働者を幅広く確認することが必要です。

正社員・パート・アルバイトにも原則適用される

最低賃金は、正社員、契約社員、パート、アルバイト、嘱託社員、臨時雇用など、雇用形態や社内での呼称を問わず原則として適用されます。高校生アルバイトや外国人労働者についても、年齢や国籍だけを理由に最低賃金の対象外とすることはできません。

試用期間中や研修期間中であっても、原則として最低賃金額以上の賃金を支払う必要があります。「研修中だから」「経験がないから」といった理由だけで、最低賃金を下回る時給を設定することはできません。

技能実習生などについても、企業との間に雇用関係がある場合は最低賃金の適用を確認する必要があります。人事・労務担当者は、従業員の名称や在留資格だけで判断せず、雇用関係、勤務場所、業務内容を基に確認しましょう。

派遣労働者は派遣先の最低賃金を確認する

派遣労働者には、派遣元企業の所在地ではなく、実際に勤務する派遣先事業場の所在地に適用される最低賃金が適用されます。たとえば、東京都にある派遣会社から大阪府内の事業場へ派遣される場合は、大阪府の最低賃金を基準に判断します。

派遣先の事業場に特定最低賃金が適用される場合は、その適用対象に該当するかも確認しなければなりません。地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される場合は、高い方の金額が基準となります。

複数の都道府県へ労働者を派遣している企業では、派遣先ごとに適用額を管理する必要があります。派遣契約を更新するときや、派遣先・就業場所が変更されたときは、最低賃金額と発効日を改めて確認しましょう。

最低賃金の減額特例が認められるケース

最低賃金には、一定の労働者を対象とした減額特例があります。ただし、該当する労働者を雇用すれば、自動的に最低賃金の適用外になる制度ではありません。使用者が申請し、都道府県労働局長の許可を受けた場合に限り、個別に減額が認められます。

減額特例の対象となる可能性があるのは、精神または身体の障害により著しく労働能力が低い人、試の使用期間中の人、一定の認定職業訓練を受ける人、軽易な業務に従事する人、断続的労働に従事する人です。

これらの条件に該当する可能性があっても、企業の判断だけで賃金を引き下げることはできません。許可を受ける前は、通常の最低賃金額以上を支払う必要があります。減額特例を検討する場合は、事前に事業場を管轄する労働基準監督署へ相談し、必要な申請書や適用条件を確認してください。

最低賃金の対象となる賃金・ならない賃金

最低賃金との比較には、給与明細に記載された総支給額をそのまま使用するわけではありません。最低賃金の対象となるのは、原則として毎月支払われる基本的な賃金です。賞与や残業代、一部の手当などは計算から除外されるため、賃金の内訳を確認してから時間額へ換算する必要があります。

最低賃金の計算に含まれる賃金

最低賃金の計算には、基本給のほか、最低賃金の除外対象に該当しない職務手当や役職手当などを含めます。毎月固定で支給されている手当であっても、すべてが自動的に計算対象になるわけではありません。

手当を含めるかどうかは、「職務手当」「調整手当」といった名称だけで判断せず、支給目的、支給条件、賃金規程の内容や実際の運用を確認することが重要です。たとえば、名称が異なっていても、実質的に通勤費を補う手当であれば、最低賃金の計算から除外される可能性があります。

固定残業代を支給している場合は、通常の労働時間に対する賃金と、時間外労働などの割増賃金に相当する部分を区別しなければなりません。割増賃金に相当する部分は最低賃金の計算に含められないため、固定残業代を含む総支給額だけで最低賃金以上と判断しないよう注意しましょう。

最低賃金の計算から除外される賃金

最低賃金の計算から除外されるのは、結婚手当などの臨時に支払われる賃金や、賞与など1か月を超える期間ごとに支払われる賃金です。また、時間外労働や休日労働に対する割増賃金、深夜労働に対する賃金のうち通常の労働時間の賃金を超える割増部分も含めません。

このほか、精皆勤手当、通勤手当、家族手当も最低賃金との比較から除外します。個別の手当について判断するときは、給与明細上の名称だけでなく、何を目的として、どのような条件で支払っているかを確認する必要があります。

最低賃金の計算に含める主な賃金原則として含めない主な賃金
基本給賞与
職務手当時間外・休日・深夜労働の割増部分
役職手当通勤手当
毎月固定で支給する一部の手当精皆勤手当
法令上の除外規定に該当しない手当家族手当・臨時手当

※個別の手当を最低賃金の計算に含めるかどうかは、名称だけでなく、支給条件、目的、賃金規程の内容や実態に基づいて判断する必要があります。

最低賃金を確認する計算方法

実際に支払っている賃金が最低賃金以上かどうかは、賃金形態に応じて1時間当たりの金額へ換算して確認します。まず、勤務先に適用される地域別最低賃金と特定最低賃金を確認し、両方が適用される場合は高い方の金額と比較しましょう。

時給制の場合

時給制の場合は、労働契約で定めた時間給と、適用される最低賃金額を直接比較します。

時間給 ≧ 最低賃金額

たとえば、適用される最低賃金が時給1,100円の場合、時間給が1,100円以上であれば最低賃金を満たします。ただし、別途支給される職務手当などが最低賃金の対象となる場合は、その手当を時間額に換算し、時間給と合計して比較します。

日給制の場合

日給制の場合は、最低賃金の対象となる日給を、1日の所定労働時間で割って時間額を算出します。休憩時間は労働時間ではないため、所定労働時間には含めません。

日給 ÷ 1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額

たとえば、日給9,600円、1日の所定労働時間が8時間の場合は、次のように計算します。

9,600円 ÷ 8時間 = 時給1,200円相当

この1,200円と、勤務先に適用される最低賃金額を比較します。原則として、実際に勤務した時間ではなく、労働契約や就業規則で定められた所定労働時間を使用します。ただし、日額で定められた特定最低賃金が適用される場合は、日給とその日額を直接比較します。

月給制の場合

月給制の場合は、月給の総支給額から通勤手当や精皆勤手当などの対象外賃金を除き、最低賃金の対象となる月給を1か月平均所定労働時間で割ります。

最低賃金の対象となる月給 ÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額

1か月平均所定労働時間は、その月の暦日数や実際の出勤日数だけで計算するものではありません。一般的には、年間所定労働日数と1日の所定労働時間から、次のように算出します。

年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12か月

就業規則、年間休日数、勤務カレンダー、所定労働時間との整合性を確認して算出することが重要です。

たとえば、賃金の内訳が次のようになっている従業員を想定します。

  • 基本給:180,000円
  • 職務手当:10,000円
  • 通勤手当:10,000円
  • 精皆勤手当:5,000円
  • 1か月平均所定労働時間:160時間

通勤手当と精皆勤手当は最低賃金の計算から除外するため、対象となる月給は次のとおりです。

180,000円+10,000円=190,000円

これを1か月平均所定労働時間で割ると、時間額は次のようになります。

190,000円÷160時間=1,187.5円

この1,187.5円と、適用される最低賃金額を比較して判定します。最低賃金の改定や給与条件の変更があったときは、一部の従業員だけでなく、最低賃金に近いすべての対象者について再計算することが大切です。

出来高払制・複数の賃金体系の場合

出来高払制や請負制で賃金を定めている場合は、その賃金計算期間に支払われた出来高払いの総額を、出来高払いの対象となる業務に従事した総労働時間で割り、1時間当たりの金額へ換算します。

出来高払いの賃金総額 ÷ 対応する総労働時間 ≧ 最低賃金額

基本給が日給制で、職務手当が月給制など、複数の賃金体系が組み合わされている場合は、それぞれの賃金を時間額に換算して合計し、適用される最低賃金額と比較します。

固定残業代や歩合給、複数の手当が含まれる給与体系では、どの賃金を対象にするかの判断が複雑になることがあります。自社だけで判断することが難しい場合は、都道府県労働局、所轄の労働基準監督署、社会保険労務士などへ確認しましょう。

最低賃金を下回った場合の企業の義務と罰則

企業が最低賃金を下回る賃金を支払っていた場合は、契約内容を修正するだけでなく、過去に生じた不足額を確認して対応する必要があります。最低賃金違反には罰則が設けられているほか、企業の信用や採用活動にも影響する可能性があるため、問題が判明したときは放置せず、速やかに調査・是正することが重要です。

最低賃金との差額を支払う必要がある

雇用契約書や労働条件通知書に最低賃金未満の金額が記載されていても、その賃金部分は法律上無効です。労働者と使用者の双方が合意していた場合でも、適用される最低賃金額と同額の賃金を定めたものとみなされます。

過去に最低賃金を下回る賃金を支払っていた場合、企業は最低賃金との差額を労働者へ支払わなければなりません。まず、どの従業員が対象となるのか、いつから不足していたのかを確認し、対象期間と不足額を正確に計算します。

あわせて、給与計算の設定、雇用契約書、労働条件通知書、賃金台帳などを修正する必要があります。最低賃金の見直しによって、時間外労働の割増賃金を算出する基礎や、社会保険料の計算に影響する場合もあります。

未払い賃金の状況によっては、遅延損害金や労働者からの未払い賃金請求につながる可能性もあります。影響範囲や計算方法が複雑な場合は、社会保険労務士や弁護士などの専門家へ確認しましょう。

最低賃金違反に対する罰則

地域別最低賃金額以上の賃金を支払わなかった場合は、最低賃金法に基づき、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

特定(産業別)最低賃金を下回った場合は、労働基準法の賃金全額払いの規定に基づき、30万円以下の罰金が科される場合があります。特定最低賃金だけでなく、地域別最低賃金も下回っている場合は、地域別最低賃金の違反にも該当しないか確認が必要です。

最低賃金違反による影響は、罰金だけではありません。労働基準監督署から是正を求められる可能性があるほか、従業員からの信頼低下、離職、採用活動への悪影響などにつながることも考えられます。

未払いが判明した場合は、一部の従業員だけを修正して終わらせず、同じ賃金体系や雇用区分の従業員についても調査し、影響範囲を確認したうえで是正することが重要です。

使用者には最低賃金の周知義務がある

使用者には、適用される最低賃金の内容を労働者へ周知する義務があります。労働者が見やすい場所への掲示、書面の交付、社内ポータルやイントラネットへの掲載など、従業員がいつでも確認できる方法で知らせる必要があります。

周知する主な内容は、適用される労働者の範囲、最低賃金額、最低賃金の計算に算入しない賃金、効力が発生する年月日などです。

複数の都道府県に事業場がある企業では、拠点ごとに適用される最低賃金額や発効日が異なる場合があります。本社で一律の情報を掲示するのではなく、各事業場に適用される内容を確認し、それぞれの従業員へ適切に周知しましょう。

最低賃金改定時に企業が行うべき対応

最低賃金が改定されたときは、時給を変更するだけでは十分ではありません。対象となる従業員の抽出、給与設定の変更、契約書や求人情報の更新、人件費への影響確認など、複数の実務を計画的に進める必要があります。

最新の最低賃金額と発効日を確認する

最低賃金の改定情報は、厚生労働省や各都道府県労働局の公式情報で確認します。審議会が示した答申額が報道されることもありますが、答申された段階の金額と、正式に決定・公示された最低賃金額は区別して扱う必要があります。

また、最低賃金の発効日は全国一律ではありません。同じ年度でも都道府県ごとに異なるため、改定額とあわせて発効日を確認しましょう。複数拠点を持つ企業では、各事業場の所在地ごとに地域別最低賃金を確認し、該当する場合は特定最低賃金も調べます。

発効後に対応するのではなく、事前に給与計算システムや従業員マスタの設定を変更し、改定日から正しい賃金が適用される状態を整えることが重要です。毎年の確認時期、担当者、承認手順を決め、定例業務として運用すると見落としを防ぎやすくなります。

最低賃金付近の従業員を抽出する

最低賃金改定時は、時給制のパート・アルバイトだけでなく、月給制の従業員も確認します。契約社員、新入社員、試用期間中の社員、短時間勤務者、外国人労働者なども含め、最低賃金の適用対象者を抽出しましょう。

月給者については、給与の総支給額ではなく、通勤手当、精皆勤手当、家族手当、時間外割増賃金などの除外対象を差し引き、1か月平均所定労働時間で割って判定します。

派遣労働者の場合は、派遣元ではなく派遣先事業場に適用される最低賃金を確認する必要があります。複数地域へ派遣している場合は、派遣先ごとに適用額を管理します。

改定後の最低賃金を下回る従業員だけでなく、最低賃金をわずかに上回る従業員も抽出し、今後の改定に備えることが大切です。あわせて、給与テーブル全体にどの程度の影響が生じるかを試算しましょう。

雇用契約書・給与規程・求人情報を更新する

賃金を変更するときは、給与計算システムだけでなく、雇用契約書、労働条件通知書、就業規則、賃金規程、給与テーブルなどの関連書類も確認します。規程の変更内容によっては、労働基準監督署への届出が必要になる場合があります。

採用活動中の場合は、求人票、採用サイト、求人媒体に掲載しているパート・アルバイトの募集広告なども更新します。最低賃金の発効後も旧時給のまま掲載していると、応募者との認識違いや契約時のトラブルにつながる可能性があります。

派遣労働者がいる場合は、派遣契約や派遣料金への影響も確認します。また、最低賃金の改定日と給与の締め日・支払日が一致するとは限りません。賃金計算期間の途中で発効する場合は、発効日の前後で適用する時給を分けて計算できるよう準備しましょう。

人件費と賃金バランスへの影響を確認する

最低賃金に該当する従業員だけを引き上げると、新入社員と既存社員、一般社員と役職者、未経験者と熟練者などの賃金差が縮小することがあります。場合によっては、経験や責任が異なる従業員の賃金が同額になる「賃金逆転」が発生する可能性もあります。

そのため、最低賃金への適合だけでなく、給与テーブル、等級、役割、評価、勤続年数などとの整合性も確認することが重要です。必要に応じて、基本給だけでなく、職務手当や役職手当などの見直しも検討します。

賃金を引き上げると、時間外労働の割増賃金や社会保険料にも影響する場合があります。対象者数、引き上げ額、残業時間などを踏まえて、人件費予算への影響を試算しましょう。

一方で、賃金水準は採用競争力や従業員の定着にも関係します。最低賃金を満たすためだけの一律対応ではなく、自社の採用市場、職務内容、人事評価制度を踏まえ、納得感のある賃金体系を検討することが求められます。

最低賃金引き上げへの対応に活用できる支援策

最低賃金の引き上げは、企業の人件費に直接影響します。特に中小企業や小規模事業者では、賃上げだけを単独で進めるのではなく、助成制度の活用や業務効率化を組み合わせ、生産性を高める視点が重要です。ただし、助成金には申請期限や対象要件があるため、利用を前提に賃金改定を判断するのではなく、制度の内容を確認したうえで活用を検討しましょう。

業務改善助成金を確認する

業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金である「事業場内最低賃金」を引き上げ、生産性向上に資する設備投資などを行った中小企業・小規模事業者に対し、設備投資等にかかった費用の一部を助成する制度です。

対象となる取り組みには、機械設備やPOSシステムの導入、業務効率化に向けたコンサルティングなどが挙げられます。ただし、すべての設備や経費が助成対象になるわけではなく、事業者や事業場についても要件が設けられています。

2026年度の業務改善助成金では、事業場内最低賃金を50円以上引き上げる計画と、設備投資等の計画を立てて申請し、原則として交付決定後に取り組みを実施する必要があります。交付決定前に設備を導入・契約・支払いした場合などは、助成対象として認められない可能性があるため注意が必要です。

助成率、助成上限額、対象事業者、申請期間などは年度によって変更されます。申請前に最新の交付要綱、交付要領、申請マニュアルを確認し、不明点がある場合は都道府県労働局の窓口、助成金の相談窓口、社会保険労務士などへ相談しましょう。

なお、助成金は申請すれば必ず受給できるものではありません。最低賃金への対応は企業の義務であるため、助成金を受給できることだけを前提に賃金改定や設備投資の計画を立てないことが大切です。

賃上げと業務効率化を同時に検討する

最低賃金が継続的に見直されるなか、単に人件費を抑えるだけの対応には限界があります。賃上げによるコスト増加を考えるときは、入社手続きや従業員情報の更新、各種申請・承認などの定型業務を見直し、生産性向上を同時に進めることが重要です。

たとえば、紙やメールで行っている申請を電子化し、承認済みの情報を人事データへ反映できる仕組みを整えれば、転記作業や確認作業を減らせます。給与・勤怠関連のシステムで利用する従業員情報を正確に整備することも、給与計算時のミスや確認工数の削減につながります。

定型業務を効率化して人事担当者の作業時間を削減できれば、賃金制度の見直し、人材配置、育成計画など、経営判断に関わる業務へ時間を振り向けやすくなります。最低賃金への対応を一時的な給与変更で終わらせず、業務プロセスと人事データ管理を見直す機会として捉えましょう。

最低賃金改定に対応できる人事情報管理の仕組みを整える

最低賃金改定に正確に対応するには、従業員の賃金額だけでなく、勤務地、雇用形態、所定労働時間、契約期間などの情報を最新の状態で把握する必要があります。給与計算システムの設定だけに頼るのではなく、その前提となる従業員情報を正確に管理できる仕組みを整えることが重要です。

Excel管理では対象者の抽出や履歴確認に時間がかかる

従業員情報をExcelで管理していると、勤務地、雇用形態、所属、契約条件などが複数のファイルに分散しやすくなります。どのファイルが最新か分からない「先祖返り」が起きたり、同じ情報を給与計算用、労務管理用、組織管理用のファイルへ繰り返し転記したりするケースもあります。

複数拠点を持つ企業では、事業場ごとに異なる最低賃金の対象者を抽出しなければなりません。しかし、勤務地や異動情報が更新されていないと、誤った都道府県の最低賃金で判定する可能性があります。退職者や休職者、過去の所属情報が同じ一覧に混在している場合も、対象者の見落としにつながります。

また、担当者ごとに計算式や抽出条件が異なると、確認結果にばらつきが生じます。最低賃金への対応では、正確で最新の従業員マスタを用意し、誰が確認しても同じ対象者を抽出できる状態をつくることが前提です。

従業員情報と組織情報を一元管理する

最低賃金改定への対応に必要な情報として、勤務地、雇用形態、所属、役職、入社日、契約期間、労働時間区分、拠点情報などが挙げられます。これらを一か所に集約し、最新情報を確認できるようにすることで、対象者を抽出しやすくなります。

現在の情報だけでなく、異動履歴や組織改編履歴も残しておけば、最低賃金の発効日時点でどの事業場に所属していたかを確認できます。過去と現在の情報を区別して管理することは、給与改定や未払い賃金の影響範囲を調査する際にも役立ちます。

人事担当者と管理職が共通のデータを参照できる環境を整えれば、情報の確認や修正依頼も進めやすくなります。ただし、人事管理システムと給与計算システムの役割は同じではありません。人事管理システムで従業員・組織情報を整備し、給与計算システムで賃金計算を行うなど、システム間の役割と連携方法を整理することが大切です。

申請・承認や人事業務を電子化する

住所変更、所属変更、雇用区分の変更、契約更新、異動申請などを紙やメールで処理していると、人事情報への反映が遅れたり、転記時に入力ミスが発生したりする可能性があります。

各種申請と承認を電子化し、申請内容や承認履歴を確認できるようにすれば、誰がいつ変更を申請し、どの内容が承認されたかを追いやすくなります。承認済みの情報を従業員マスタへ反映する運用を整えることで、更新漏れや二重入力の防止にもつながります。

サイレコは、紙やExcelに分散しやすい従業員情報や組織情報を一元管理し、異動履歴の蓄積や各種申請・承認の電子化を支援するクラウド型人事管理システムです。給与計算そのものを行うシステムではありませんが、給与計算や最低賃金確認の前提となる人事情報を整備する基盤として活用できます。

定型的な情報更新や確認作業を効率化できれば、人事担当者は賃金制度の見直し、人件費の試算、人材配置などの検討に時間を使いやすくなります。人事情報の分散や更新作業に課題がある企業は、資料請求や無料体験を通じて、自社の管理方法や既存システムとの連携に適しているかを確認するとよいでしょう。

まとめ

最低賃金とは、最低賃金法に基づき、使用者が労働者へ支払わなければならない賃金の最低限度を定めた制度です。地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の2種類があり、適用される金額や発効日は勤務地や業種によって異なります。企業は、最低賃金の対象となる賃金を正しく理解し、時給制・日給制・月給制などの給与体系に応じて適切に確認することが重要です。

また、最低賃金の改定時には、対象者の抽出、給与計算の見直し、雇用契約書や求人情報の更新、人件費への影響確認など、幅広い対応が求められます。これらを毎年スムーズに実施するためには、従業員情報や組織情報を正確に管理できる仕組みを整えておくことが欠かせません。

人事情報がExcelや紙で分散し、勤務地や雇用形態、異動履歴の管理に課題を感じている場合は、人事管理システムの活用も選択肢の一つです。サイレコでは、従業員情報や組織情報の一元管理、申請・承認業務の電子化などを支援しています。最低賃金改定への対応をきっかけに、人事業務全体の効率化を検討したい場合は、資料請求や無料体験で自社に適した運用方法を確認してみてはいかがでしょうか。

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