成果主義とは?基本の定義と日本企業での位置づけ
成果主義の定義 ― 「成果・成績に応じて処遇を決める人事制度」
成果主義とは、従業員の年齢や学歴、勤続年数ではなく、仕事であげた 成果や成績を基準に処遇を決める人事制度を指します。昇給・昇格・賞与などの評価を、 「どれだけ結果を出したか」「どのような成果につながったか」という観点から行う点が特徴です。 いわゆる「成果主義とは?」という問いに対しては、 「成果・成績に応じて報酬や等級を決定する仕組み」と整理すると分かりやすいでしょう。
この成果主義人事制度では、原則として年齢・学歴・勤続年数といった属性情報は評価の中心になりません。 同じ年齢・同じ入社年次であっても、より高い成果を出した人が高く評価されるため、 「やった分だけ報われる」「実力次第で早期に昇進できる」といった公平感・納得感を打ち出しやすい考え方です。
一方で、成果主義は「結果主義」や「実力主義」と混同されることも少なくありません。 結果主義は数値として可視化された結果そのものを重視する傾向が強く、 実力主義はスキルや能力とあわせて評価するニュアンスを含みます。 現代の成果主義は、単に数字だけを見るのではなく、 結果とプロセスの両面を捉えながら処遇を決める人事制度として設計されるケースが増えています。
成果主義を英語で言うと?海外での考え方との関係
成果主義を英語で表現すると、一般的には Result-based Human Resource Management(成果ベースの人事マネジメント) といった言い方をされます。欧米では、もともと「成果に見合った報酬を支払う」「成果を出した人にチャンスを与える」 という考え方が広く浸透しており、成果主義は自然な前提として受け止められてきました。
特に、専門職・営業職・マネジメント職など、個人の裁量や責任が大きい職種では、 成果ベースで処遇を決めることが合理的だと考えられています。 契約形態や雇用の流動性が高い国・地域ほど、 「成果に対する対価」「ジョブ(職務)に対する対価」という発想が強く、 成果主義人事制度もその延長線上に位置づけられます。
ただし、日本企業がそのまま海外型の成果主義をコピーすると、 既存の文化や雇用慣行とぶつかり、社員の不信感やモチベーション低下を招くこともあります。 海外では当たり前の「成果に応じた報酬」を、 自社の文化・価値観・雇用慣行とどうすり合わせるかが、 成果主義導入を成功させるうえでの重要なポイントになります。
日本企業における成果主義の現状
日本企業では長らく、終身雇用とセットになった年功序列型の賃金制度が主流でした。 しかし、バブル崩壊後の業績悪化や人件費の高騰、働き方の多様化を背景に、 「成果に応じて処遇を決めたい」というニーズが高まり、 1990年代以降、成果主義が急速に広がりました。
一方で、完全な成果主義への移行に成功した企業は多くありません。 実際には、人事白書など各種調査でも、 能力主義(能力・スキルを重視)、 成果主義(成果・成績を重視)、 職務主義(役割・ジョブを重視)が 組み合わさった「ハイブリッド型」の評価・報酬制度を採用している企業が大半です。
例えば、日本企業では次のようなミックス型がよく見られます。
- 若手〜中堅:能力主義と成果主義を組み合わせ、ポテンシャルと実績をバランスよく評価する
- 管理職:職務主義(役割責任)と成果主義(業績・組織成果)をセットで評価する
- 研究職・バックオフィス:短期成果だけでなく、中長期の貢献や専門性も評価に含める
このように、現在の日本企業における成果主義は、 「年功序列からの完全な転換」ではなく、 年功・能力・職務・成果を組み合わせた“現実的な制度設計”の一要素として位置づけられているのが実情です。 自社の戦略や人材ポートフォリオに合わせて、 どの程度「成果主義の比重」を高めていくかを検討することが求められています。
成果主義が広まった背景:バブル崩壊から働き方改革・人的資本経営まで
1990年代バブル崩壊と年功序列コストの限界
日本で成果主義が注目され始めた大きな転換点が、1990年代のバブル崩壊です。 株価や不動産価格が急落し、多くの企業の業績が悪化。コスト削減が急務となる中で、 特に問題となったのが「年功序列制度による人件費の高騰」でした。
年功序列・終身雇用を前提とする日本型雇用では、 勤続年数が長いほど給与が上がる構造になっており、 業績に関わらず高コスト化が進むという課題がありました。加えて、 少子高齢化による年齢構成の変化も重なり、 「年齢が上がれば給与が上がる」仕組みに限界が見え始めていたのです。
その中で企業が求めたのは、「成果に応じて支払う=人件費を適正化する」という考え方でした。 成果主義は、このような経営ニーズと時代の背景が重なり、急速に広まっていきました。
働き方の多様化と雇用の流動化
バブル崩壊後、正社員だけでなく派遣社員・契約社員・パートタイマーなど複数の雇用形態が一般化し、 企業の働き方は急速に多様化しました。働く側の価値観も「終身雇用・年功序列を前提としたキャリア」から、 「能力・成果・専門性に応じて働く」という方向へ変化しています。
さらに、国が推進した「同一労働同一賃金」や「働き方改革」では、 職務や成果に応じた公平な評価と処遇が求められるようになりました。 従来型の年功序列のままでは説明がつきにくく、 「職務・成果に合わせた評価制度」が不可欠になったことも、成果主義が広がった理由のひとつです。
働き方改革・人的資本経営と「生産性」の可視化
2019年以降の働き方改革では、残業時間の上限規制や非正規社員の待遇改善が法制度として義務化されました。 企業は「長時間労働で成果を出す」働き方から脱却し、限られた時間で成果を上げるための “生産性向上”が求められています。
さらに近年は、上場企業に人的資本開示が求められるようになり、 「人材にどのように投資し、どのような成果を生んだのか」を説明する必要が出てきました。 この流れの中で、個人や組織の生産性・成果を可視化し、 評価制度と紐づけて説明する仕組みとして、成果主義が再び注目されています。
もちろん、成果主義は万能の制度ではありません。 短期成果偏重や個人主義の助長など、多くの失敗事例もあります。 しかし、「人件費の適正化」「生産性の透明化」という企業課題を考えるうえで、 成果主義は避けて通れない選択肢であり、今後も議論の中心となる制度だといえます。
成果主義と年功序列・能力主義・結果主義の違い
成果主義 vs 年功序列 ― 何が真逆で、何が補完的か
まず、成果主義とよく比較されるのが年功序列です。年功序列は、従業員の 年齢や勤続年数に応じて賃金・役職が上がる仕組みで、日本企業に長く根付いてきた制度です。 これに対し成果主義は、個人の成果・成績を基準に処遇を決める制度であり、 「時間を積み重ねれば昇進する」という前提を持ちません。
両者は考え方としては真逆の位置づけに見えますが、年功序列にもメリットは存在します。 例えば、
- 会社への帰属意識が高まりやすい
- 生活の安定感から長期的なキャリア設計がしやすい
- 離職防止につながる
など、従業員の心理的安全性や継続就労に寄与する側面があります。
そのため、現代では「完全成果主義に切り替える」のではなく、 “成果主義 × 年功序列の良さ” をバランスよく取り入れたハイブリッド型が主流になっています。
成果主義 vs 能力主義 ― 「成果」を見るか「ポテンシャル」を見るか
次に比較されるのが能力主義です。能力主義は、従業員の スキル・経験・資格・業務態度などの能力を評価する制度であり、 「成果そのもの」ではなく「成果を生み出す力」に注目します。
一方の成果主義は、結果(成果)と、その結果に至るプロセスを重視します。 例えば、営業職であれば売上数字、企画職であればプロジェクトの成果やアウトプットなどが評価対象になります。
ただし、成果主義には弱点があります。 異動した直後・新規事業・研究職など、短期的な成果を出しにくい場面では、 成果が評価に直結してしまうと、不公平感が生まれやすいためです。
このような領域では、 「成果+能力」を総合的に見る能力主義の要素を加えることが非常に有効です。 そのため実務では、成果主義と能力主義を組み合わせた運用が一般的です。
成果主義 vs 結果主義・実力主義 ―「プロセス評価」と「将来性」の扱い
成果主義と混同されがちな概念に結果主義があります。 結果主義は、その名の通り「表面に現れた結果の数字だけを見る」極端な評価思想です。 プロセス評価や努力の軌跡、外的要因は一切考慮されません。
一方の成果主義は、 「結果」だけでなく、 結果に至るプロセス・貢献・行動の質も評価する点が大きく異なります。 現代の成果主義では、数字だけを基準にすると失敗しやすいことが各種事例から明らかになっています。
また実力主義は、成果に加えて「能力・将来性」も含めて評価するイメージが強く、 成果主義と能力主義の中間的な位置づけといえるでしょう。
「数字だけの評価」に走ると、個人プレーや短期志向が強まり、 組織のチームワークや文化を破壊してしまう危険があるため、 成果主義は“数字だけを追わない制度設計”が必須であることを、 後のデメリットや導入ポイントにつなげることが重要です。
成果主義のメリット:人件費の適正化から優秀人材の確保・育成まで
人件費の適正化と「投資配分」の見直し
成果主義を導入する大きなメリットのひとつが、人件費の適正化です。 年功序列では、成果を十分に出していない従業員にも勤続年数に応じて高い給与が支払われるため、 企業にとっては“高コスト・低パフォーマンス”の構造が生まれやすくなります。
成果主義では、成果を出していない高コスト人材への過剰支払いを抑え、 その分を成果を出している若手・中堅に再配分できるという投資効率の改善が期待できます。
人件費という限られた経営資源を、 「成果を生み出す人材」に重点配分できる点こそ、 成果主義が再評価されている大きな理由です。
モチベーション向上と自律的な人材の育成
成果主義のもう一つの強みは、従業員のモチベーション向上につながりやすい点です。 努力や成果がそのまま給与・昇格・役職に反映されるため、 「やれば報われる」「正当に評価される」という納得感が生まれます。
この構造は、従業員が 「成果を出すには何が必要か」 を自ら考え、行動するきっかけを与えます。その結果、 主体性が高く、自律的に成果を追求できる人材が育ちやすくなります。
上司からの指示待ちではなく、 自ら課題を見つけ、動き続ける主体的人材の育成にもつながる点は、 成果主義の大きなメリットと言えるでしょう。
採用・リテンション(離職防止)へのプラス効果
成果主義は、採用活動や既存社員のリテンションにも良い影響を与えます。 成果に応じた報酬設計が可能になることで、 優秀人材に対して市場平均以上のオファーを出しやすくなります。
さらに、社内のハイパフォーマーに対しても、 成果に見合った給与・役職を提示できるため、 「頑張っても報われない」という不満を生みにくい制度になります。
その結果、 優秀層の流出防止(リテンション強化) につながり、企業としての競争力維持にも寄与します。
生産性向上と「ムリ・ムダ・ムラ」の削減
成果主義は、企業全体の生産性向上にも寄与します。 成果を出すには、限られた時間の中で効率的に仕事を進める必要があるため、 従業員は自然と業務改善やプロセス見直しに意識が向きます。
成果を上げるために、
- 必要のない作業(ムダ)
- やり方にばらつきがある状態(ムラ)
- 能力や負荷の偏り(ムリ)
を減らす行動が進むため、組織全体の効率が高まります。
また、働き方改革で求められる 「時間あたり生産性」の視点とも相性が良く、 単に長時間働くのではなく「限られた時間でどう成果を出すか」を考える文化が根づきます。
業務の棚卸し・プロセス改善・デジタル活用などの取り組みが進む結果、 企業全体のパフォーマンス向上にもつながるのが成果主義の大きなメリットです。
成果主義のデメリット・問題点:短期成果偏重と個人主義リスク
短期成果に偏り、中長期投資が疎かになる
成果主義には多くのメリットがある一方で、短期成果への偏重という大きなリスクがあります。 特に、評価指標が「今期の売上・数字」に集中してしまうと、 次のような中長期的テーマが後回しになりがちです。
- 研究開発(R&D)への投資
- 若手育成やマネジメントの強化
- ブランド投資や顧客関係構築
- 新規事業やイノベーションへの挑戦
成果主義を適切に運用しなければ、 「短期で成果を出す行動だけが評価される」文化が生まれ、 企業としての競争力低下につながる可能性があります。
部署・職種ごとの評価の難しさと「不公平感」
成果主義は、職種・部署によって評価しやすさが大きく異なる点も問題となります。
- 営業・販売:売上など数字で成果を示しやすい
- 法務・人事・経理・研究職:成果が数字で見えにくい
- インフラ・管理系:成果が出るまでに時間がかかる
このため、同じ「成果主義」という基準をそのまま当てると、 不公平感が生まれやすいという課題があります。
評価軸を適切に分けずに制度だけ導入すると、 「成果が見える仕事ばかりが評価される」「バックオフィスが低評価になりやすい」 といった問題が発生し、組織全体のモチベーション低下につながります。
個人プレー・コンプライアンスリスクの高まり
成果主義は、運用を誤ると個人主義の暴走を招く可能性があります。
- 他者をサポートせず、自分の数字だけを追う
- チームワークより「自分の成果」を優先する
- 成果を出すためにグレーな案件に手を出す
- 情報共有が減り、組織としての学習速度が低下する
実際に、参考記事にもある三井物産の失敗例では、徹底した成果主義により 「成果のために不正確な案件に取り組む」「知識共有が激減する」などの問題が発生したとされています。
成果主義が過度に働くと、倫理観やコンプライアンスが揺らぐことさえあり、 制度設計と運用のバランスが非常に重要だと言えます。
モチベーション低下・離職率増加への連鎖
成果主義のもうひとつの大きなデメリットは、 成果が出ない人ほど評価が下がり、心理的安全性が低下するという点です。
成果が評価に直結するため、成果が出ない期間が続くと、
- 給与が上がらない・下がる
- 自信を失い、チャレンジしづらくなる
- 自己否定感が高まり、退職を選びやすくなる
このようにして、 「成果主義に合わない人」が退職 → 残った人の負担増 → さらなる離職 という悪循環が生まれる可能性があります。
組織全体の雰囲気が悪化すると、生産性や心理的安全性が低下し、 成果主義のメリットが逆効果になってしまう恐れがあります。
外的要因・他部署要因で成果が左右される不公平
成果主義は、努力だけではどうにもならない外的要因によって評価が大きく左右される点も課題です。
- 取引先の業績悪化や契約打ち切り
- 市場変動や景気悪化
- 政策・法改正による影響
- 同じプロジェクト内の誰かのミスで成果が落ちる
このように、従業員本人のコントロール外の要因によって成果が変動すると、 「頑張っても評価されない」という不満が生じ、不公平感が強まります。
そのため、成果主義の制度設計では、 「外部要因をどう扱うか」 「チーム成果と個人成果をどう配分するか」 などのルールが非常に重要になります。
成果主義は強力な制度である反面、扱いを誤ると組織に大きなダメージを与えかねません。 デメリットを理解したうえで、バランスの取れた制度設計が欠かせません。
成果主義導入の成功事例・失敗事例から学ぶポイント
成功事例に共通するポイント ― 「事前の土台作り」と「評価の細分化」
成果主義を成功させている企業には、いくつかの共通点があります。 代表的なのが、制度導入以前から人材育成・能力開発の土台が整っていることです。
例えば成果主義の成功例として知られる花王は、1960年代から人材開発に力を入れ、 「成果を出すためのスキル・プロセス」が社員に共有されていました。 こうした基盤がある企業では、成果主義を導入しても、社員の混乱や不信感が生まれにくく、 制度がスムーズに根づきやすくなります。
また成功企業は、 部署や職種ごとに評価軸を細かく設計する「職群制度」的なアプローチを実践しています。 研究職・営業職・バックオフィスなど、成果の出し方が異なる職種別に評価基準を設定し、 「成果の見える仕事ばかりが有利」「見えにくい仕事が不利」という不公平をなくしている点も特徴です。
失敗事例に共通するポイント ― 「制度だけ先行」「評価者育成不足」
一方で、成果主義の導入に失敗した企業には、次のような共通点があります。
1. 制度だけが先行し、運用が追いつかない
代表例が富士通で、導入時に評価者の理解・スキルが不十分なまま制度だけが導入されました。 その結果、
- 評価者が部下を甘めに評価する傾向が強まる
- 結果として評価に差がつかず、「誰が成果を出したのか」が見えなくなる
という問題が発生し、制度の信頼性が低下しました。
2. 個人主義が暴走し、組織が分断される
たとえばマクドナルドの例では、「自分の数字を上げる」ことが最優先され、 新人育成やチームワークが犠牲になり、組織のパフォーマンスが総崩れしたといわれています。
つまり、評価者教育や文化づくりを怠ると、成果主義は簡単に崩壊するということです。
自社の文脈に当てはめて読み解く ― 「他社の成功パターンをそのまま真似しない」
成果主義の導入を検討する際、成功企業の事例は参考になりますが、 そのままコピーしてもうまくいかないことが非常に多いのが現実です。
なぜなら企業にはそれぞれ、
- 業種(メーカー・IT・サービスなど)
- 企業規模(大企業・中小企業・ベンチャー)
- 事業ステージ(成長期・成熟期・再建期)
- 既存文化(年功序列が強い/職務型に近いなど)
といった「企業の文脈」が存在するためです。
そのため成果主義導入を検討する際は、次のような問いを持つことが重要です。
- うちの会社は成果をどう定義するべきか?
- 職種ごとに評価軸を変える必要があるか?
- 評価者育成に十分なリソースを割けるか?
- 成果主義が文化に合うのか、段階的導入が妥当か?
このように、「自社の特性に合わせてカスタマイズする姿勢」こそが、 成果主義を成功させる最大のポイントです。 他社の成功を参考にしつつも、「うちはどうか?」と必ず照らし合わせて判断することが重要になります。
成果主義を機能させる評価制度設計:評価基準・項目・プロセスの作り方
評価基準を明確にする ― 何を「成果」とみなすのか
成果主義を正しく機能させるためには、まず成果の定義を明確にすることが不可欠です。 「何をもって成果とみなすのか」が曖昧だと、制度は必ず形骸化します。
■ 定量指標(数字で測れる成果)
- 売上・利益・粗利
- コスト削減額
- プロジェクト完了率/期限遵守率
- 契約数・生産量などのKPI
■ 定性指標(数字に表れにくい貢献)
- 顧客満足度の向上
- プロセス改善・品質向上
- チームワーク・部門間連携への貢献
そして何より重要なのは、会社の戦略・ビジョンと紐づいたKPI設計です。 「事業の目指す方向性」と評価指標がズレていると、現場の行動が分散し、成果主義は機能しません。
数字だけにしない ― プロセス・行動指標も組み込む
成果主義は「数字だけ」で評価すると失敗しやすい制度です。 そこで、成果(結果)+プロセス(行動)の両面を組み込むことが重要です。
■ プロセス評価として入れるべき項目例
- 新しいチャレンジ・改善提案の積極性
- チームや後輩への指導・育成
- 他部署との協働・情報連携
- コンプライアンス遵守・リスク管理
これは「数字だけを見る極端な結果主義」との大きな違いであり、 成果主義の質を高めるために欠かせないステップです。
職種・職群別の評価軸を設計する
すべての職種に同じ評価軸を当てはめると、成果主義は必ず破綻します。 特に研究・企画・管理部門・バックオフィスなど、短期成果が出にくい仕事は、 営業や製造とはまったく違う評価軸が必要です。
■ 職種別評価の考え方
- 研究職:短期成果が出にくいため「中長期の研究進捗」「技術力向上」「知見の共有」など
- 企画職:アイデアの質・企画数・プロジェクト推進力など
- バックオフィス:業務改善・トラブル削減・プロセス効率化など
ポイントは、どの職種でも「成果が見える指標」+「プロセス指標」をセットでつくることです。 これにより職種ごとの不公平が減少し、成果主義の納得性が高まります。
評価プロセスの透明性とフィードバック
制度がどれだけ良くても、運用が不透明だと成果主義は必ず不満を生みます。 評価プロセスの透明性は成功の大前提です。
■ 透明性を高めるためのポイント
- 評価基準・評価フローを社内に明確に周知する
- 評価者によるフィードバック面談を必ず実施する
- 評価理由を定量・定性の両面から説明できる状態にする
- 評価のブレを防ぐため、評価者トレーニングを継続実施
納得度の高い評価プロセスは、成果主義への信頼を高め、 従業員のモチベーションを維持するうえでも欠かせません。
成果主義を自社に合う「現実的な制度」にするためのチェックリスト&導入ステップ
成果主義が向いている/向いていない組織の特徴
成果主義は、どんな企業にも万能にフィットする制度ではありません。 組織の特徴や文化により、向き・不向きが明確に分かれます。 まずは以下の基準で「自社は成果主義と相性が良いのか」を判断しましょう。
■ 成果主義が向いているケース
- 成果指標(数字・KPI)が比較的明確な業務が多い
- 個人裁量や専門性が高い職種が中心(営業・開発・コンサルなど)
- 既に目標管理(MBO)や評価制度の運用経験があり、数字に慣れている
- 成果やプロセスを記録・可視化する仕組みが整っている
■ 向いていない・慎重にすべきケース
- 成果の可視化が本質的に難しい業務が多い(バックオフィス中心など)
- 年功序列・終身雇用色が強く、評価への不信感や心理的安全性が低い
- 評価者のリソース・評価スキルが圧倒的に不足している
- 人事データ管理が手作業中心で、評価業務が膨大になりやすい
導入前チェックリスト(例:10〜15項目)
成果主義導入を検討する際は、以下のチェックリストで「制度設計の準備が整っているか」を確認します。
- 評価指標(定量・定性)は明確に定義できているか?
- 職種ごとの成果の違い・固有性を理解し、整理できているか?
- 評価者研修に十分な時間・費用を割けるか?
- タレントマネジメントシステム等の導入余力があるか?
- 既存の賃金カーブをどう移行するかのシミュレーションがあるか?
- 成果主義によって不利になる社員へのケア方針は決まっているか?
- 成果主義を導入する目的(人件費最適化?人材育成?)は整理されているか?
- 評価結果をどうフィードバックし、納得度を高めるか決まっているか?
これらに十分に答えられない場合は、制度導入を急ぐべきではありません。
段階的導入ステップ ― いきなり“全社成果主義”にしない
成果主義は、いきなり全社導入するほどリスクが高く、失敗確率も跳ね上がります。 成功企業の多くが、段階的・実証型の導入プロセスを採用しています。
■ Step1:現行評価制度の棚卸し・課題整理
- 現状の評価の偏り・不公平・納得度の課題を洗い出す
■ Step2:一部職種・一部等級での試行(パイロット)
- 成果指標が明確な部署から先行導入し、データと課題を収集
■ Step3:評価指標・運用フロー・評価者研修をブラッシュアップ
- パイロットの学びを反映し、制度を調整・改善
■ Step4:全社横展開 or ハイブリッド型の検討
- 全社導入を行うか、「成果+能力+職務」のミックス型にするか判断
- 企業文化・事業特性に応じた最終調整
成果主義×他の評価軸(能力主義・職務主義・バリュー評価)の組み合わせ
現在の日本企業では、完全成果主義はほとんど存在しません。 成果主義は他の評価軸と組み合わせることで、初めて現実的な制度になります。
■ 代表的な評価軸の組み合わせ
- 成果(What):達成した成果・業績
- 能力(Can):スキル・知識・経験・ポテンシャル
- 行動(How / Value):企業の価値観・行動指針に沿った行動
この「What × Can × How」を組み合わせた評価は、 海外でも主流であり、近年日本でも急速に広がっています。
特に、バリュー評価(行動評価)を取り入れることで、 「成果だけ追ってチームが崩壊するリスク」を大幅に抑えることができます。
成果主義の導入を成功させるポイントは、 “純粋な成果主義”にこだわらず、組織文化に合わせたハイブリッド設計を行うことです。
まとめ|成果主義は「設計」と「運用」で成否が分かれる──自社に合う形で最適化することが鍵
成果主義は、成果に応じて処遇を決めるわかりやすい仕組みであり、人件費の適正化、優秀層の活躍促進、モチベーション向上など多くのメリットがあります。しかし同時に、短期成果偏重、個人主義の助長、不公平感、評価者スキル不足など、適切に設計・運用しなければ逆効果になるリスクも大きい制度です。
そのため重要なのは、「成果主義を導入するかどうか」ではなく、“どう設計し、どう運用するか”という視点です。評価基準の明確化、職種別の評価軸の最適化、プロセス評価の組み込み、評価者研修の徹底、心理的報酬の設計など、多面的な仕組みづくりが成果主義を成功させます。また、いきなり全社導入せず、パイロット運用で制度の精度を高める段階的アプローチも効果的です。
成果主義は万能ではありませんが、適切に運用すれば組織の生産性向上や人材育成の強力な武器になります。自社の文化・業務特性に合わせてカスタマイズし、納得度の高い評価制度を構築することが、これからの人的資本経営において不可欠と言えるでしょう。制度設計に迷った場合は、専門家や外部サービスを活用することも有効です。