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ハラスメントとは?種類・定義・法律・職場での具体的な対策をわかりやすく解説

「ハラスメント」という言葉はよく耳にするものの、「どこからがハラスメントになるのか」「法律上どこまでが許されないのか」に自信をもって答えられる人は多くありません。厚生労働省の調査でも、直近3年間にパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントの相談を受けた企業はそれぞれ約5割・3割に上るなど、今も多くの職場でハラスメントが発生している実態が示されています。

ハラスメントは、被害者の心身の健康を損ない、離職や生産性低下を招くだけでなく、企業にとっても損害賠償リスクやレピュテーション低下など重大な経営課題です。その一方で、「指導」と「パワハラ」の線引きが曖昧なまま現場が迷い、結果として問題行動を放置したり、逆に指導が萎縮してしまうケースも少なくありません。

本記事では、ハラスメントの基本的な定義から、パワハラ・セクハラ等の種類と法律上の位置づけ、企業が講じるべき防止措置や発生時の実務対応までを、最新の法改正動向も踏まえて整理します。人事・総務・管理職の方が「自社のハラスメント対策が十分か」を点検し、すぐに現場改善につなげられるよう、チェックリストと事例も交えて解説していきます。

ハラスメントとは?基本の意味と「レベル」整理

ハラスメントの一般的な意味(いやがらせ・迷惑行為全般)

「ハラスメント」とは、一般的には「相手の嫌がることをして不快感を覚えさせる行為」全般を指します。 身体的な攻撃だけでなく、言葉・態度・メールやチャットなどのコミュニケーションを通じて、相手に精神的な苦痛や圧迫感を与える言動も含まれます。

法令上は、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなど、いくつかのハラスメントが明確に定義されています。 一方で、法律に直接の定義はなくても、社会通念上「これは許されない」と認識されるモラルハラスメントなどもあり、「法令に定義されたハラスメント」と「社会通念上ハラスメントとされる行為」があることを理解しておくことが重要です。

4つのレベルで見るハラスメント(犯罪/不法行為/労働法上のハラスメント/企業秩序違反)

ハラスメントは、その悪質性や影響の大きさに応じて、次の4つのレベルで整理すると分かりやすくなります。

  • ①刑法上の犯罪
    暴行罪・傷害罪・名誉毀損罪・侮辱罪・強制わいせつ罪など、刑法に定められた犯罪に該当するレベルのハラスメントです。 被害の程度が大きく、加害者が逮捕・起訴され、刑事罰の対象となる可能性があります。
  • ②民法上の不法行為(損害賠償の対象)
    相手の権利や利益を違法に侵害し、精神的・経済的な損害を与えた場合には、不法行為として損害賠償の対象になります。 たとえ刑事事件にならなくても、被害者から慰謝料や治療費などの賠償を請求されるリスクがあります。
  • ③労働法が定義するハラスメント
    労働施策総合推進法や男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などが定める、 パワーハラスメント・セクシュアルハラスメント・マタニティハラスメント・パタニティハラスメント・ケアハラスメントといった類型です。 企業には、これらのハラスメントを防止し、発生時に適切に対応する義務が課されています。
  • ④企業秩序違反行為(コンプライアンス違反・懲戒対象)
    社内規程やハラスメント防止方針に反する言動で、必ずしも刑事・民事の責任までは問われない場合でも、 企業のコンプライアンスや職場秩序を乱す行為として、注意・指導や懲戒処分の対象となることがあります。

このように、「どのレベルのハラスメントに当たるのか」を意識することで、企業として取るべき対応やリスクの大きさを整理しやすくなります。

法令上定義されている5つのハラスメントと、それ以外のハラスメント

法令上、定義が明確に示されているハラスメントは、主に次の5種類です。 これらは、企業に防止措置や対応が義務付けられている重要なハラスメントです。

  • パワーハラスメント(パワハラ)
    職場における優越的な関係を背景とした言動により、業務上必要かつ相当な範囲を超えて、労働者の就業環境を害する行為。
  • セクシュアルハラスメント(セクハラ)
    職場において行われる性的な言動により、労働者が不利益を受けたり、就業環境が害される行為。
  • マタニティハラスメント(マタハラ)
    妊娠・出産・産前産後休業などに関する言動により、女性労働者の就業環境を害する行為。
  • パタニティハラスメント(パタハラ)
    男性の育児休業取得などに関する言動により、就業環境を害する行為。
  • ケアハラスメント(ケアハラ)
    介護休業や家族のケアに関する制度利用を理由に、労働者の就業環境を害する行為。

一方で、次のように「法律に明文の定義はないが、社会通念上ハラスメントと認識されている」類型も多数存在します。

  • モラルハラスメント(モラハラ)
    無視・暴言・陰口・過度な叱責など、精神的ないやがらせ全般。
  • アルコールハラスメント(アルハラ)
    飲み会の参加や飲酒を強要したり、酔いに乗じた迷惑行為・セクハラ行為を行うこと。
  • ジェンダーハラスメント
    「男性だから〜すべき」「女性だから〜であるべき」といった性別役割分担意識に基づく差別的な取り扱い。
  • テクノロジーハラスメント(テクハラ)
    ITやデジタルツールに不慣れな人を馬鹿にしたり、必要なサポートをせずに過度なプレッシャーをかける行為。

自社のハラスメント対策を考える際は、法令で定義された5つのハラスメントにとどまらず、 社会通念上問題となる行為も含めて「どこまでをハラスメントとして扱うか」を明確にし、ルール化・周知しておくことが重要です。

日本のハラスメントの現状と企業・従業員にもたらすリスク

統計から見るハラスメントの実態

厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」では、多くの企業でハラスメント相談が発生している実態が明らかになっています。 特に、パワーハラスメントに関する相談は48.2%、セクシュアルハラスメントの相談は29.8%と、高い割合で報告されています。 これらの数字は、企業規模を問わず、職場内でハラスメントが依然として深刻な問題であることを示しています。

また、近年は「顧客等による著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)」の相談も増加傾向にあります。 暴言・脅迫・過度な要求・長時間拘束といった行為が問題化しやすく、小売・飲食・サービス業、医療・介護など 顧客接点の多い業種では特に発生率が高いことが指摘されています。 従業員のメンタルヘルス悪化や退職につながるケースも多く、企業としての対策が急務となっています。

企業にとってのリスク(人的資本・コンプライアンス・レピュテーション)

ハラスメントが発生すると、企業にとってさまざまなリスクが生じます。特に深刻なのは、従業員の離職やモチベーションの低下によって 人的資本が毀損されることです。パワハラ・セクハラ等の存在は職場環境を悪化させ、優秀な人材の流出を招き、採用活動にも悪影響を及ぼします。

さらに、企業には従業員を守る「安全配慮義務」が課されており、ハラスメントを放置した場合は安全配慮義務違反使用者責任に基づく 損害賠償リスクが発生します。被害者が心身に障害を負った場合、慰謝料や損害賠償額が高額に及ぶことも少なくありません。

加えて、SNSや口コミサイトを通じて情報が瞬時に拡散する現代では、「ハラスメントが横行する会社」との評判が広まりやすく、 企業ブランドの毀損につながります。採用力の低下、顧客離れ、ステークホルダーからの信頼低下など、 企業経営に長期的な影響を与える可能性があります。

被害者・加害者それぞれに起こる影響

ハラスメントは被害者だけでなく、加害者や周囲の従業員にも深刻な影響を及ぼします。 まず被害者は、強いストレス・不安・抑うつ状態が続き、メンタルヘルスの悪化PTSDの発症などのリスクが高まります。 中には休職や退職に追い込まれるケースもあり、生活基盤や家族関係にも大きな影響が及びます。

加害者も例外ではなく、ハラスメント行為が認定されれば、懲戒処分・降格・配置転換などの人事上の不利益を受ける可能性があります。 さらに、行為の内容によっては損害賠償の支払い刑事責任を問われるケースもあります。

このように、ハラスメントは被害者・加害者・企業のすべてに深刻なダメージをもたらすため、 「予防」と「早期発見・早期対応」が極めて重要であることが分かります。

主なハラスメントの種類と定義・具体例

パワーハラスメント(パワハラ)とは|定義と6類型

パワーハラスメント(パワハラ)は、労働施策総合推進法により明確に定義されており、次の3要件をすべて満たすものを指します。

  • ①優越的な関係を背景とした言動
  • ②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
  • ③労働者の就業環境を害する言動

さらに、厚生労働省はパワハラを次の「6類型」に分類しています。

  • 身体的攻撃:暴行・傷害などの身体的被害を伴う行為。
  • 精神的攻撃:罵倒・脅迫・人格否定・侮辱・必要以上の叱責。
  • 人間関係からの切り離し:無視・隔離・仲間外れ・業務からの排除。
  • 過大要求:達成不可能なノルマ設定、過剰な業務量を押し付ける行為。
  • 過小要求:本来の業務を外し、能力・キャリアを無視した軽作業のみを命じる。
  • 個の侵害:プライベートへの過度な干渉、私生活や家族の事情の詮索。

これらの行為は、表面上は「指導」「教育」「業務命令」に見えても、内容・頻度・態度が不相当であればパワハラに該当する可能性があります。

セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは|対価型と環境型

セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、「職場における性的な言動」によって、労働者が不利益を受けたり、就業環境が悪化する行為を指します。

セクハラには主に次の2種類があります。

  • 対価型セクハラ:
    昇進・昇給・評価などの利益と引き換えに性的行為を要求するケース。 例)「条件を飲むなら評価を上げる」「デートを断ったら不利な配置転換」など。
  • 環境型セクハラ:
    職場の性的な発言や画像・動画の共有、身体への不必要な接触などにより、職場環境が悪化するケース。 例)性的な冗談を繰り返す、性的な画像を共有する、身体に過度に触れるなど。

妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメント(マタハラ・パタハラ・ケアハラ)

妊娠・出産・育児休業・介護休業などに関連して、労働者の就業環境を害する言動を総称して「マタハラ」「パタハラ」「ケアハラ」と呼びます。

  • マタニティハラスメント(マタハラ):
    妊娠や出産、産前産後休業を理由に、嫌がらせや不利益な取り扱いを行う行為。
  • パタニティハラスメント(パタハラ):
    男性が育児休業を取得する際に、「休むのは甘えだ」「迷惑がかかる」といった攻撃的発言や不利益な扱いを受ける行為。
  • ケアハラスメント(ケアハラ):
    家族の介護休業や時短勤務を利用する従業員に対する不当な扱い。

「休むなら辞めて」「他の人に迷惑だから制度を使うな」などの発言は、明確なハラスメントに該当し、 不利益な配置転換や契約更新拒否は法律上も不利益取扱いとして違法となります。

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客や取引先の相手方からの、社会通念上相当性を欠く要求や迷惑行為を指します。

  • 過度なクレームの強要
  • 暴言・脅迫・侮辱
  • 営業時間外や深夜の長時間拘束
  • 土下座の強要
  • 不当な返品・返金の要求

「顧客は神様」という価値観が残る職場では、従業員が不当な要求に晒されやすく、精神的負荷が大きくなります。 企業は従業員を守るために明確な対応方針エスカレーションルールを設ける必要があります。

就活ハラスメント(就活ハラ・就活セクハラ)とは

就活ハラスメントとは、就職活動中・採用選考中・インターン中の学生に対して行われるパワハラやセクハラ行為を指します。

  • 圧迫面接・威圧的な態度
  • 学生の個人事情や外見に関する不適切な質問
  • 採用優遇と引き換えにした不適切な接触や要求(就活セクハラ)

これらの行為は、企業の信用を大きく損なうだけでなく、採用ブランドを傷つけ、学生からの応募離れを引き起こします。 企業にとって長期的な損失となるため、採用担当者・面接官への教育が重要です。

その他の代表的ハラスメント(モラハラ・ジェンダーハラスメント・アルハラ・テクハラ等)

法令に明確な定義がないものの、社会通念上問題となる代表的なハラスメントには次のようなものがあります。

  • モラルハラスメント(モラハラ):
    無視・悪口・陰口・過度な叱責など、精神的な攻撃や圧力。表面化しづらく、長期化しやすい特徴があります。
  • ジェンダーハラスメント:
    「男性だから営業職」「女性だからお茶出し」など、性別役割分担意識に基づく差別的扱い。
  • アルコールハラスメント(アルハラ):
    飲酒の強要、酔った勢いによる迷惑行為やセクハラ行為など。特に若手や新入社員が被害を受けやすい傾向があります。
  • テクノロジーハラスメント(テクハラ):
    ITツールやデジタルスキルが苦手な人に対し嘲笑したり、サポートを怠るなどの行為。DX推進の現場で増加しています。

職場で起こりうるハラスメントは多様化しており、企業はあらゆるパターンを想定したガイドライン整備と教育が求められています。

法令から見るハラスメント:企業が押さえるべきルールと改正動向

労働安全衛生法と労働施策総合推進法(パワハラ防止法)

ハラスメント対策は、「企業の努力」ではなく、法律によって義務化されています。 まず重要となるのが労働安全衛生法労働施策総合推進法(パワハラ防止法)です。

労働安全衛生法では、企業に対して安全・衛生管理体制の整備が義務づけられており、その中にはメンタルヘルス対策や相談体制の構築が含まれます。 ハラスメントは従業員の心身に深刻な影響を与えるため、相談体制や産業医・衛生管理者との連携において、ハラスメント対応を組み込むことが不可欠です。

また、パワハラに関しては労働施策総合推進法30条の2・3により、企業には以下の「パワハラ防止措置」が義務化されています。

  • 事業主方針の明確化と周知・啓発
  • 相談体制の整備
  • 迅速・適切な事後対応(事実確認、被害者保護、再発防止)
  • プライバシー保護と不利益取扱いの禁止

この義務は、大企業では2020年、中小企業では2022年4月から順次適用され、すべての企業が法的責任を負うことになりました。

男女雇用機会均等法・育児介護休業法とセクハラ・マタハラ・パタハラ・ケアハラ

セクシュアルハラスメント(セクハラ)や妊娠・出産・育児・介護に関連するハラスメントは、 男女雇用機会均等法および育児・介護休業法で防止措置が義務化されています。

均等法の11条・11条の3では、企業に対して

  • セクハラ防止措置
  • 妊娠・出産等に関するハラスメント(マタハラ)防止措置

を講じることが義務づけられています。

また、育児介護休業法の25条・28条では、

  • 育児休業中の不利益取扱い(パタハラ)
  • 介護休業利用者への不当な扱い(ケアハラ)

といったハラスメントを明確に禁止し、企業に防止措置を求めています。 妊娠・育児・介護に関わる制度利用を妨げる行為は、法令違反となり企業の責任が問われます。

刑法・民法上の責任(犯罪・損害賠償)

ハラスメント行為は、内容によっては刑事責任民事責任を問われる可能性があります。

刑法上、次のような行為は犯罪に該当します。

  • 暴行罪・傷害罪(叩く、殴るなど)
  • 名誉毀損罪・侮辱罪(悪質な暴言、社会的評価を下げる発言)
  • 強制わいせつ罪(身体への不必要な性的接触)

民事上も、民法709条(不法行為責任)により、被害者から損害賠償を請求される可能性があります。 また、企業は従業員の行為に対して安全配慮義務違反や、使用者責任(民法715条)を問われることがあり、 慰謝料・逸失利益・治療費等の賠償責任を負うケースもあります。

カスタマーハラスメント・就活セクハラに関する最新の法改正動向

近年増加しているカスタマーハラスメント(カスハラ)や、求職者に対する就活セクハラについても、法改正が進んでいます。

2025年6月11日公布の改正法(令和7年法律第63号)では、次の2点が大きなポイントとなります。

  • ① カスタマーハラスメント防止措置の義務化
    顧客等からの暴言・長時間拘束・土下座要求などに対し、企業が従業員を守る措置を取ることが今後義務に。
  • ② 求職者・学生に対するセクハラ防止措置の義務化
    就職活動中の学生や求職者に対する不適切な言動に企業が責任を持つことを明確化。

施行時期は「公布から1年6か月以内に政令で定める日」とされています。 つまり、企業は施行前のタイミングで

  • 社内規程の改訂
  • 相談窓口・対応フローの整備
  • 従業員向け・管理職向け研修
  • 顧客対応方針(クレーム対応マニュアル)の見直し

といった準備を進める必要があります。

カスハラと就活セクハラを「企業の義務」として扱う時代になりつつあり、 これからの企業はより包括的なハラスメント対策が求められています。

立場別に見るハラスメントの影響:企業・被害者・加害者

企業への影響 ― 離職・採用難・生産性低下・法的リスク

ハラスメントは企業にとって重大な経営リスクです。社内でハラスメントが発生すると、従業員の心理的安全性が失われ、離職率の上昇エンゲージメントの低下につながります。その結果、人材が定着せず、生産性も大幅に低下します。

また、ハラスメントが表面化すると、SNSや口コミなどで「ハラスメントが横行する会社」というレピュテーションが広がり、新卒・中途いずれの採用活動にも悪影響が生じます。

法的には安全配慮義務違反使用者責任による損害賠償リスクがあり、裁判や示談で数百万円〜数千万円規模の支払いが発生するケースもあります。さらに、セクハラ・パワハラ・マタハラ等では、企業が必要な措置を怠った場合、行政指導・勧告・公表といった制裁を受ける可能性もあります。

被害者・家族への影響 ― メンタルヘルスと生活基盤

ハラスメントを受けた被害者は、職場環境が著しく悪化し、働き続けることが困難になります。特に精神的な攻撃や継続的な嫌がらせは、うつ病・不安障害・PTSDなどの精神疾患につながり、最悪の場合は自殺に至るケースも報告されています。

また、被害者本人だけでなく家族にも影響が及びます。メンタル不調に伴う休職・収入減は生活基盤を揺るがし、パートナーとの関係悪化や離婚につながる場合もあります。心身の不調で育児・家事・介護ができなくなり、日常生活全体が崩れてしまうケースも珍しくありません。

加害者への影響 ― 処分・キャリアへのダメージ

加害者側にも深刻な影響があります。企業はハラスメントを確認した場合、内容に応じて懲戒処分(戒告・減給・降格・出勤停止)を行い、場合によっては懲戒解雇となることもあります。加害者の評判は大きく損なわれ、社内外での信頼を失い、キャリアに長期的なダメージを負います。

また、法律上の責任としては、被害者からの損害賠償請求の対象となり、暴行・強制わいせつ・名誉毀損などの行為があれば刑事責任を問われることもあります。これにより社会的信用を大幅に失い、再就職が困難になるケースもあります。

ハラスメントが生まれる背景・原因を理解する

コミュニケーション不足と価値観のズレ

ハラスメントが発生する大きな背景として、まずコミュニケーション不足が挙げられます。 相手の性格・家庭事情・健康状態・価値観を理解しないまま、 自分の基準だけで言動を行うと、意図せず相手を傷つけてしまうことがあります。 これがハラスメントへ発展する典型的なメカニズムです。

特に現代では、ハラスメント判断の基準が「加害者の意図」ではなく 被害者がどう感じたかに置かれています。 そのため、「悪気はなかった」という主張は通用せず、 想定外のトラブルにつながるケースも増えています。 日頃からの信頼関係づくり、丁寧なコミュニケーションの重要性が増していると言えます。

アンコンシャス・バイアスと性別役割分担意識

「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」は、 性別・年齢・国籍・働き方・文化などに基づき、 本人が気づかないうちに偏った判断をしてしまう思考の癖を指します。 この偏見が、差別的な言動や不適切な扱いの根本原因となり、 ハラスメントの温床になります。

特に日本では「男は外で働く」「女は家庭を守る」という 性別役割分担意識が根強く、 これがセクハラ・ジェンダーハラスメントを引き起こします。 女性だからお茶くみをさせる、男性だから営業を担当させるといった扱いは、 無意識の偏見として職場に残り続けやすく、組織的な問題を生みます。

組織風土・業務設計の問題(パワハラ・マタハラ・ケアハラ)

ハラスメントの背景には、個人の意識だけでなく組織風土仕事の設計が影響している場合も多くあります。 例えば、 「上司の指示は絶対」「成果さえ出せば手段は問わない」という風土が根づくと、 パワハラが発生しやすくなります。

また、産休・育休・介護休業の取得を想定していない業務設計や人員配置は、 業務負荷が特定の人に偏り、周囲に不満が蓄積することで マタハラ・パタハラ・ケアハラにつながります。 企業側が制度を整えるだけでなく、 運用を前提とした業務配分・代替要員体制づくりが不可欠です。

ハラスメント防止のための基本方針とルールづくり

経営トップメッセージと方針の明文化

ハラスメント防止の取り組みは、まず経営トップの強い意思表明から始まります。 「ハラスメントを一切容認しない」「加害行為に対しては厳正に対処する」という方針を明文化し、 全従業員に対して明確かつ継続的に発信することが重要です。

企業のミッション・バリュー・行動指針と一貫したメッセージにすることで、 組織全体に「安全で公正な職場づくり」を浸透させる効果が高まります。 管理職を含むすべての従業員が同じ認識を共有できる仕組みづくりが求められます。

ハラスメント防止規程・就業規則の整備

防止の基盤となるのが、ハラスメントに関する明確な規程(ルール)整備です。 規程には最低限、以下の内容を明記することが推奨されます。

  • ハラスメントの定義(パワハラ・セクハラ・マタハラ・パタハラ・ケアハラ・カスハラ等)
  • 禁止される具体的行為の例
  • 懲戒基準(行為の重大性・再発の有無に応じた処分)
  • 相談窓口の設置と対応フロー
  • 事実確認・調査手続きの方法
  • プライバシー保護と不利益取扱い禁止

近年は、派遣社員・フリーランス・業務委託など多様な働き方が増えており、 顧客や取引先との接点で起きるハラスメント(カスハラ・就活セクハラ等)も増えています。 そのため、規程の適用範囲を明確にし、従業員以外の関係者とのやり取りについても 企業としての方針を示すことが必要です。

NG事例・OK事例を明文化したガイドライン・チェックリスト

抽象的な方針だけでは従業員の理解が不十分な場合があります。 そのため、職場で起こりやすい事例をもとに、「これはNG」「これは適切な指導」と 具体例を示したガイドラインを整備することが効果的です。

特に管理職に向けては、以下のような「指導とパワハラの線引き」チェックリストを用意すると、現場の判断が安定します。

  • 人格否定につながる言葉を使っていないか?
  • 業務目的と関連しない叱責や指示になっていないか?
  • 過度な長時間の叱責や周囲の面前での叱責になっていないか?
  • 業務の難易度・量が対象者の能力と比べて過大になっていないか?

これらの「明文化された基準」があることで、従業員は安心して働けるようになり、 組織としてハラスメントを未然に防ぐ仕組みが強化されます。

相談窓口・研修・事後対応:運用フェーズでの実務ポイント

相談窓口の設計と運用(社内・外部・匿名)

ハラスメント防止体制を機能させるためには、従業員が安心して相談できる複数の相談窓口が欠かせません。 人事部門やコンプライアンス部門に加え、産業医・社外の第三者窓口・匿名通報システムなどを併用することで、 「どこに相談してよいか分からない」という状況を避けられます。

相談窓口を担当するスタッフには、傾聴スキル・法令知識・初期対応のポイントなどを含む 専門トレーニングが必要です。また匿名相談が可能な仕組みを整えることで、 相談者の心理的ハードルを下げ、早期発見につながります。

管理職・従業員向け研修のポイント

ハラスメント防止には、教育(研修)が不可欠です。 特に、管理職は評価・指導・配置の権限を持つため、最新の法改正・行政ガイドラインを踏まえた正しい知識が求められます。

研修内容には以下を盛り込むと効果的です。

  • パワハラ・セクハラ・カスハラ・就活ハラなどの最新動向
  • 2025年の法改正を含む最新の法令解説
  • アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の理解
  • 多様性・インクルージョンに基づく行動の重要性
  • 職場で起こりうるケーススタディと実践的な対応方法

従業員向けにも、日常のコミュニケーションや気づきのポイントを学べる研修が効果的です。 繰り返し学び直しができるeラーニングとの併用も有効です。

ハラスメント発生時の対応プロセス(事実確認・処分・再発防止)

ハラスメントが発生した場合、企業には迅速かつ公正な対応が求められます。基本となるプロセスは次の3段階です。

①早期の事実確認
被害申告を受けたら、速やかに事実確認を行います。被害者・行為者の双方だけでなく、必要に応じて第三者のヒアリング・メールやチャットログの確認などを行い、事実を丁寧に把握します。

②被害者保護と適切な懲戒
被害者の安全確保を最優先とし、必要に応じて配置転換・在宅勤務・休業支援などを行います。 心身の不調がある場合は産業医やメンタルヘルス窓口と連携したサポートが必須です。
加害行為が認定された場合は、懲戒処分の内容が妥当かどうかを慎重に判断し、過度または不十分な処分にならないよう透明性のあるプロセスで対応します。

③組織レベルの再発防止策
個別対応で終わらせず、ハラスメントが起きた背景(組織風土・業務量・コミュニケーション・管理職の指導方法など)を分析し、再発防止の施策に落とし込みます。
ルールやガイドラインの見直し、教育の強化、情報共有などが求められます。

プライバシーと二次被害防止の配慮

ハラスメント対応では、関係者のプライバシー保護が極めて重要です。 相談内容を不必要に広めたり、関係者を不用意に特定できる状況を作ったりすることは、二次被害(セカンドハラスメント)につながります。

企業は、相談したことで不利益を受けないよう、就業規則等で明確に定め、その内容を全従業員へ周知する必要があります。 調査中の「噂の拡散」や「被害者への非難」を防ぐための運用ルールも整えなければなりません。

テレワーク・生成AI・多様な働き方時代の新しいハラスメントリスク

オンライン環境でのハラスメント(リモハラ・オンハラ)

テレワークの普及により、オンライン上で発生する新たなハラスメント、いわゆるリモートハラスメント(リモハラ/オンハラ)が増えています。 Web会議やチャットツール上での暴言・侮辱、過度な業務指示、深夜の連絡、カメラ強制など、対面とは異なるストレスが生まれやすい状況です。

また、オンライン会議の録画やチャットログの保存には注意が必要です。無断録画・不適切な共有はプライバシー侵害につながり、 ハラスメント問題に発展することがあります。企業として、録画・記録のルールを明確にしておくことが求められます。

テクノロジーハラスメントとDXギャップ

デジタル化が一気に進む中で生まれたのが、テクノロジーハラスメント(テクハラ)です。 ITツールに不慣れな従業員に対して嘲笑・排除・過度なプレッシャーを与える行為は、立派なハラスメントとなり得ます。

企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める際に、教育やサポートが不十分なまま高度なスキルを求めてしまうと、 従業員に心理的負荷がかかり、テクハラの温床となります。ITレベルの個人差を前提とした研修設計が不可欠です。

生成AI・監視ツールと「見えない圧力」

近年、勤怠管理ツールやPC操作ログを活用したモニタリングが広がっていますが、 その運用が過度になると「監視されている」という心理的圧迫を生み、パワハラ的な扱いとなる可能性があります。

また、生成AIの活用が進むことで、AIに不適切なプロンプトを入力して特定の個人を揶揄する、AI出力を悪用して個人攻撃を行うなど、 新しいタイプのハラスメントが起こりうることも指摘されています。企業は「生成AIの倫理的利用ルール」を整備し、 差別・攻撃的な利用を明確に禁止する必要があります。

これから求められる「心理的安全性」とエンゲージメント経営

多様な働き方が定着する時代において、単にハラスメントを「防止」するだけでは不十分です。 従業員が安心して意見を述べ、失敗を共有し、チャレンジできる心理的安全性を確保することが、 組織のパフォーマンス向上に直結します。

心理的安全性の高い組織は、離職が減り、生産性やエンゲージメントが高まることが多くの研究で示されています。 人的資本経営の観点からも、ハラスメント対策と心理的安全性の向上は不可分です。企業は職場環境を継続的に改善し、 「誰もが尊重される組織づくり」を戦略的に進める必要があります。

まとめ

ハラスメントは、パワハラ・セクハラ・マタハラ・パタハラ・カスハラなど多様な形で発生し、企業・従業員双方に深刻な影響を及ぼします。 特に、離職率の上昇、生産性低下、企業ブランドの毀損、損害賠償リスクなど、経営面の損失は計り知れません。また、被害者の精神的ダメージや家族への影響、加害者自身のキャリア毀損など個人レベルでの影響も重大です。

そのため企業には、明文化された方針とハラスメント防止規程の整備、相談窓口の複線化、管理職・従業員への研修、事後対応の適正化など、総合的かつ継続的な対策が求められます。さらに、テレワークや生成AIなど新しい働き方の広がりに伴い、新たなハラスメントリスクにも対応する必要があります。

最終的に重要なのは、誰もが安心して働ける心理的安全性の高い職場づくりです。組織の健全性を守り、人的資本を最大限活かすためにも、今こそハラスメント対策を全社的に見直し、必要な改善を進めることが求められます。相談しやすい環境づくりや専門家への相談など、できるところから着実に取り組んでいきましょう。

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